コラム

強欲な大人たちを批判する環境少女グレタが、実は金融業界のアイドル?

2019年11月28日(木)11時08分

国連気候行動サミットでグレタは、環境問題に真剣に取り組まない「大人たち」を痛烈に批判 CARLO ALLEGRIーREUTERS

国連の気候行動サミットにおけるグレタ・トゥーンベリさんの演説は、全世界に大きな衝撃を与えた。日本ではグレタさんへの感情的な反発が強いようだが、温暖化対策推進の背後には国際金融資本の動きがあり、もはや好き嫌いの問題ではなくなっている。

地球環境問題は人類にとって極めて重要なテーマだが、一方で、豊かになりたいと考える途上国はどうするのかという課題があり、対策はなかなか前に進まなかった。近年になって大きな前進が見られるようになったのは、社会のIT化が進んだからである。

ITが全世界的に普及したことで、あらゆる産業の限界コスト(一単位の生産量増加に必要なコスト)が低下し、経済水準に関係なく均等に経済を発展させることが可能となってきた。これまでは道路や橋、鉄道、通信網の整備など、段階を踏む必要があったが、ITをフル活用すればこの手順は不要となる。

かつて内戦に明け暮れたカンボジアは、独裁政権ながらも今はめざましい成長を遂げており、最新のITサービスが次々と立ち上がっている。一歩外に出ると、汚い道路はトゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシーであふれ返っているが、そのトゥクトゥクはアプリを使っていつでも呼び出すことができるのだ。

このところウーバーなどのシェアリング・エコノミー企業が躍進しているが、この仕組みを使えば、既存の資産を流用するだけで新しいサービスを開発できる。

こうした経済構造の変化は金融システムに甚大な影響を及ぼすことになる。既に経済学の世界でも議論が始まっているが、IT化社会においては新規に設備投資をしなくてもサービスを開発できるため、経済圏全体で必要とする資金量が減ってしまう。

低金利時代に高まる期待

現在の全世界的な低金利は一般的には量的緩和策の影響と理解されているが、それだけが原因とは限らない。大量のマネーを必要としなくなる新社会の到来を市場が察知し、それが低金利の遠因となっている可能性は否定できず、そうだとすると資本家は従来と同様のリターンを得られなくなる。現代の資本家というのは年金ファンドや投資信託などいわゆる機関投資家であり、背後には無数の中間層が存在すると考えたほうがよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story