日本経済が低迷する本当の理由は「中間搾取」と「下請け構造」
下請け構造や中間搾取が経済を低迷させる元凶
本来、実施すべき構造改革には数多くのテーマがあるが、特に優先順位が高いと考えられるのが下請け構造と中間搾取の問題である。
企業は得意な分野に特化した方がよいので、機能ごとに階層分離すること自体は悪いことではない。ある完成品メーカーが単純な部品の製造を別の企業に依頼するというのは諸外国でもよく見られる光景である。だが、市場メカニズムがしっかりしている経済の場合、付加価値の低い製品の製造を請け負った企業は、合併などによって市場シェアを高め、元請け企業との交渉力を高めようとする。あるいは一定価格以下の仕事は利益が出ないので断ってしまい、製品を供給する企業数が最適化されることで価格は一定以下には落ちない。
ところが日本の場合、こうしたメカニズムは働かず、下請け企業がいつまでも価格交渉力を持てないまま、元請け企業は際限のない値引き要求を続けるという悪循環に陥ってしまう。下請け企業はさらに孫請けの企業に仕事を投げ、コストカットを試みるので、経済全体では壮大なムダが発生してしまうのだ。
流通も同じである。商品をすみずみまで流通させるためには、1次卸、2次卸といった具体にある程度の階層構造になるのはやむを得ない。だが日本の場合には、流通も合理化されておらず、複雑な商流を維持している業界は多い。海外の場合、メーカーに直接掛け合えば製品を売ってくれるケースは珍しくないが、日本の場合には、業界の和を乱すといった理由でメーカーは絶対に最終顧客に直接製品を販売しないことも多い。
こうした状況が行きすぎると、中間搾取だけを目的とした企業が多数、温存されることになる。実際、IT業界などでは、元請けが受けた仕事を下請けとして請け負い、その仕事を孫請けに丸投げするだけの企業も多い。
運送業界でも同じようなケースがある。再配達問題などで運送会社の社員の過重労働が問題となっているが、一部の運送会社は拠点間輸送を信じられない水準の料金で下請けに丸投げしている。顧客から受け取った配送料の多くは、運送会社が受け取ってしまい、下請けの運送会社には適正な代金が支払われていない。これでは業界全体が疲弊するのも当然である。
日本の貧困率の高さは異常であり、すぐにでも改革が必要
同一の統計ではないので厳密な比較はできないが、日本では人口1000万人あたり約28万の事業所が存在しているのに対して、米国では24万しかない(中小企業庁および米国勢調査局)。日本は人口に比してムダに会社数が多いということだが、その理由のひとつとなっているのが中間マージンを取ることだけを目的にする事業者の存在である。
これに加えて日本の場合、社員14人以下の企業に勤務する人の割合は22%だが、米国では推定15%以下となっている。日本では小規模な事業所が多く、経済全体で合理化が進んでいないという状況が推察される。
もっともドイツのように世界トップクラスの生産性を実現しながら、日本と同じように多数の中小企業が存在する国もある。だがドイツの中小企業の競争力は極めて高く、直接、製品を海外に販売する中小メーカーも多い。ニッチな分野で高い競争力を発揮する企業があえて規模を抑制しているという状況であり、日本の下請け企業とはかなり様子が異なっている。
中間マージンを取るだけの企業が生み出す付加価値は低く、薄利多売にならざるをえない。当然のことながらその企業で働く従業員の賃金は安い。しかもこうした企業は中間生産物しか生産しないので、GDP(国内総生産)には直接的に寄与しない。こうした企業が別の製品やサービスの提供にシフトすれば、あっと言う間に日本のGDPは増え、付加価値が上昇する分、賃金も上がるだろう。
だが市場の合理化を実現するためには、企業の統廃合や労働者の転職が促進されるよう、市場の流動性を高める政策が必要となる。
一部の人は、こうした環境に置かれる正社員が出てくることについて猛反発しており、これが諸改革を遅らせている。だが、今の日本では非正規労働者を中心に、多数の国民が貧困に追い込まれており、先進国としてはすでに異常事態である。一部の恵まれた正社員の絶対的な安定を最優先するという合理的な理由はない。