コラム

顧問・相談役制度への批判が高まっているのにやめられないワケ

2017年11月07日(火)12時30分

日本の企業トップの多くは、従業員時代の意識を引きずったまま

では日本企業はなぜこのような形で元トップらを処遇するのだろうか。この制度は、日本型雇用システムと密接に関係しており、ある意味では構造的なものといえる。

日本では20年以上も前からコーポレート・ガバナンスに関する議論が続けられてきた。東証が上場企業に対して社外役員の選任を求めるなど、状況はかなり進展したが、諸外国と比較した場合、十分な水準とはいえない。というよりも多くの企業にとって東証からの要請は望ましいものではなく、ホンネではガバナンスを強化したいとは思っていない。

日本企業がガバナンスの強化を望まない最大の理由は、企業に対する認識が諸外国とは根本的に異なっているからである。日本では企業の形態にかかわらず、企業は従業員や経営者のものという意識が強く、株式会社の所有者は株主であるとの認識が薄い。

もし企業を従業員や経営者のものにしたいのであれば、それに合致した会社形態にすればよく、わざわざ株主の所有権を強く打ち出した株式会社を選択する必要はないのだが、なぜか日本では株式会社ばかりが好まれる(米国ですら、株式会社は必ずしもメジャーな存在とはいえない)。企業の売り買いや株主主権を嫌う国民が、それにもっとも適した会社形態ばかりを強く望むというのは大きな矛盾であり、なぜそうなっているのかはちょっとした謎である。

それはともかく、こうした環境では、多くの企業が外部から経営者を招聘するという習慣に馴染めない。結果的にトップの多くは従業員からの昇格となる。しかも後継トップを氏名するのは、たいていの場合、株主や取締役会ではなく現社長である。

そうなってくると、仮にトップに就任しても、従業員時代の上下関係がそのまま残されてしまう。株主から雇われたという意識がないため、新しいトップのロイヤリティは、たいていの場合、自分を指名してくれた前トップに向けられることになる。

顧問制度の弊害をなくためには、日本型雇用システムの見直しが必要

もし前トップが、顧問や相談役という形で引き続き影響力を行使することを望んでいた場合、あるいは車と秘書を付けることを強く求めたような場合(これを望む相談役・顧問は多いといわれる)、後任トップの多くはその要求を拒否できないだろう。

ガバナンスに対する認識の違いは意思決定の場面においてより顕著となる。もしトップが株主から選ばれ、株主に対して責任を負っていると認識しているなら、企業内での意思決定は自分自身で行うことになる。そうでなければ株主に対して説明がつかないからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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