コラム

EUを離脱した英国は「ノルウェー化」か「中国蜜月」を目指す?

2016年06月27日(月)16時17分

Yui Mok/pool-REUTERS

<英EU離脱問題で、残留を織り込んでいた市場にはショックが走った。今後もしばらくは不安定な動きが続くだろうが、金融危機は起こっていない。懸念されるのは、金融危機よりも経済危機。イギリスには2つの道が開けている> (写真は昨年10月、訪英した中国の習近平国家主席と馬車で出迎えたエリザベス女王)

 EU(欧州連合)からの離脱の是非を問う英国の国民投票が終了した。当初は残留派が優勢と思われていたが、フタを開けてみれば離脱派の勝利となった。円相場は一時、1ドル=100円を割り込む状況となり、各国の株価も軒並み下落している。今後の影響を懸念する声があちこちから聞こえてくるが、ここは、少し冷静になる必要があるだろう。

<ニューストピックス:歴史を変えるブレグジット国民投票

これは金融危機なのか経済危機なのか

 今回の国民投票の結果は、離脱が51.9%、残留が48.1%と、思いのほか離脱支持派が票を伸ばした。基本的に都市部で残留が優勢で、地方では離脱が優勢という状況だったが、大票田であるイングランドにおいて離脱派が53.4%に達し、残留派が多いスコットランドを圧倒してしまった。国民投票の実施はキャメロン首相が決めたことだが、キャメロン氏は完全に票を読み誤ったといってよいだろう。

 事前の予想は、残留支持派が僅差で勝利するというものが多かったため、市場は完全に残留を織り込んでいた。国民投票の前日にはポンドが急上昇するなど、楽観ムード一色だっただけに離脱のショックは大きい。新聞の見出しには「リーマンショック級の危機」「世界恐慌」といったキーワードが並んでいる。

 開票作業中、市場が開いていた日本では、日経平均株価が7.9%も下落し、続いて開いたロンドン市場ではFTSE指数が3.2%下落、ニューヨークのダウ平均株価も3.4%下落した。為替も円高が進み、ドル円は一時1ドル=100円を割り込んだ。しばらくの間、金融市場では不安定な動きが続く可能性が高い。

【参考記事】論点整理:英国EU離脱決定後の世界

 確かに英国のEU離脱は、歴史的な転換点となる出来事であり市場へのインパクトは大きい。だが、英国の離脱が必ずしも危機的な状況を引き起こすとは限らない。

 リーマンショックの時もそうだったが、私たちは金融危機と経済危機を混同してしまいがちである。両社は互いに関係しているが、本質的には別のリスク要因である。離脱がもたらす影響について考える際には、両者をしっかりと区別し、個別に検証することが重要だろう。

今のところ金融危機は起こっていない

 今回のようなショッキングなイベントが発生すると、最初に懸念されるのは金融危機である。金融危機とは、予想外の出来事に市場が動揺し、皆が投資を手仕舞いすることで発生する。単に株価が下落するだけなら、投資した人が損をするだけでおしまいだが、それだけでは済まないことがほとんどだ。

 機関投資家の中には、投資した株式を担保に資金の融資を受け、これを再投資しているところもある。また、出資している企業の株式を担保に事業資金の融資を受けている事業会社もあるだろう。こうした状況で株価が急激に下がってしまうと、銀行は追加の担保を求めたり、資金を引き揚げる可能性が出てくる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏側近ウィットコフ特使がプーチン氏と会談、

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き 

ワールド

EXCLUSIVE-ウクライナ和平案、米と欧州に溝

ビジネス

豊田織機が株式非公開化を検討、創業家が買収提案も=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story