「エンゲル係数急上昇!」が示す日本経済の意外な弱点
消費税5%では変わらなかったが、8%でエンゲル係数が上昇
エンゲル係数が急上昇した直接的な原因は、消費税の8%への増税と考えられる。消費が弱いと事業者は簡単には値上げできないため、多くの事業者は、これまで内容量の削減など目に見えない形で値上げを続けてきた。しかし、2014年4月の消費増税をきっかけに名目上の値上げに踏み切った事業者が多く、これが食料品価格を一気に押し上げた。消費税が上がっても、収入が増えたわけではないので、消費者は他の品目を切り詰めることになる。その結果として、エンゲル係数が上昇したと考えられる。
ちなみに1997年4月に実施された消費税の5%への増税時には、エンゲル係数の目立った上昇は見られなかった。当時はまだ家計に余裕があり、贅沢品への支出も多かったはずである。消費増税に対しては、各品目についてまんべんなく消費を減らすことで対応したものと思われる。今回、消費増税でエンゲル係数が急上昇してしまったのは、日本の家計がそろそろ限界にきていることを示しているのかもしれない。
人件費が削減されているが、投資家に回っているわけではない
家計の所得が減少しており、これによって消費が弱くなっているという現実は、安倍政権もよく認識しており、これが財界に対する3年連続の賃上げ要請につながっている。だが、家計の所得がなぜ減っているのかという根本的な部分についてはあまり議論されていない。
当たり前のことかもしれないが、家計の所得が減少しているのは、企業が人件費を削減しているからである。マクロ的に見てもその傾向は顕著であり、日本における労働分配率は、一時、持ち直したことがあったものの、基本的に低下傾向が続いている。労働分配率と対になるのは資本分配率なので、それだけを見ると、企業は人件費を削り、その分を投資家に還元していることになる。
確かにこうした側面は否定できないが、一方で、日本企業の投資家に対する還元水準は著しく低いことでも知られている。安倍政権が、企業に対して賃上げを要請する一方、ROE(株主資本利益率)の向上も強く求めていることからも、それを伺い知ることができる。日本企業は、労働者に対する還元も、投資家に対する還元も少ないのである。
では、労働分配率の低下で余ったお金はどこに消えてしまったのだろうか。ヒントになりそうなのが、マクロ経済における固定資本減耗である。一般的な労働分配率は、国民所得に対する雇用者報酬の比率が用いられる。だがこれをGDP(国内総生産)全体に対して適用するとまた違った風景が見えてくる。
労働分配率が低下しているのは同じだが、資本分配率は実は上昇していないのだ。一方で上昇傾向が続いているのが固定資本減耗である。これは企業会計で言えば減価償却に相当するものだが、これは何を意味しているのだろうか。ひとつ考えられるのは、日本における設備投資効率の悪化である。
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