コラム

「エンゲル係数急上昇!」が示す日本経済の意外な弱点

2016年02月02日(火)15時11分

家計所得の減少や円安の進行と合わせて考えると、消費税5%への増税時には上がらなかったエンゲル係数が8%になって急上昇したことには意味がある Hxdyl-iStock.


〔ここに注目〕家計所得の推移

 このところ家計のエンゲル係数が急上昇していることが話題となっている。エンゲル係数は生活の豊かさを示す指標として知られているが、価値観が多様化した先進国ではあまり意味のない指標とも言われる。ただ、エンゲル係数が急上昇したということは、家計に何らかの変化が起こった結果であることは間違いない。エンゲル係数自体がいくらなのかということよりも、むしろ、変化の背景について考察することに意味があるはずだ。実際にその背景を探ってみると、日本経済の意外な弱点が見えてくる。

「エンゲル係数は先進国では無意味」は本当か

 総務省は1月29日、2015年12月における家計調査の結果を公表した。二人以上の世帯における消費支出は31万8254円で、前年同月比(実質)でマイナス4.4%と大幅な減少となった。このところ、家計の実質消費支出は急激な勢いで減少しており、家計がかなり苦しい状態に陥っている。同時に、家計の消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数も急上昇している。

 同じ月の食料品支出は8万8327円となっており、エンゲル係数を計算すると27.8%となる。12月は食料品支出が増える傾向にあるのでエンゲル係数が増加することが多いが、2014年12月の数値は25.9%だったので、昨年と比べてもかなり上昇している。2013年までは、エンゲル係数が25%を超える月はほとんどなかったが、2014年に入ってから25%を超える月が増え始め、2015年になるとその傾向がさらに顕著になった。昨年5月以降は、毎月25%を超える状況が続いている。

kaya160202_chart.jpg

 食料品には、生活を維持するための最低限度の支出水準というものがあり、嗜好品と比べて極端に節約することができない。生活が苦しくなってくると、家計支出に占める食料品の割合が増加するという一般的な傾向が見られることから、エンゲル係数は生活水準を示す指標としてよく使われている。

 もっとも、先進国においては、消費が多様化しており、必ずしもエンゲル係数の上昇が生活水準の低下を示すとは限らない。エンゲル係数について考える際には、支出全体の状況も含めて多角的に考察する必要があるだろう。

 日本における家計支出の絶対値はここ15年、一貫して減少が続いている。2000年における家計の平均支出は32万円弱だったが、2015年はおそらく29万円を切る可能性が高い。家計の支出が減っているのは、世帯収入が減少しているからである。平均的な世帯年収は過去15年間で15%ほど減少しており、これに伴って支出を切り詰めていると考えられる。

【参考記事】アベノミクス「新3本の矢」でメリットのある人・ない人

 ただ、アベノミクスが始まる前までは、基本的にデフレだったので、それほど深刻ではなかったのだが、円安が進んだことで状況が大きく変わった。円安によって輸入品を中心に物価が上昇する一方、給料は上がらないため、家計の実質所得が大幅に低下したのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story