コラム

日本にキレるロシアには大人の対応を

2024年08月24日(土)15時00分

日本海で演習を行うロシア太平洋艦隊(2021年10月) EYEPRESSーREUTERS

<北朝鮮のミサイルや台湾有事に備える日本の動きを見て、警戒心を高めるロシアの勘違い>

自国領土であるクルスク州の一部をウクライナ軍に制圧されて、ロシアは対応に窮している。クルスクと言えば2000年8月、乗員118人と共に沈んだ大型原潜の名も「クルスク」だった。プーチン政権の始まりと終わりは「クルスク」の名でくくられるのかもしれない。

そんな中、プーチンの腹心、ニコライ・パトルシェフ大統領補佐官は7月末に政府系の「ロシア新聞」で、アメリカは日本の自衛隊との兵力統合運用を強化し、NATOの欧州諸国も艦船を日本に派遣するなど日本の防衛力を強化しようとしており、ロシアはこれに対抗して海軍を増強するなど、適切な措置を取らざるを得ない、と書いた。


そして元国家安全保障会議書記のアンドレイ・ココーシンは、日本と仲良くしようとする時代は終わった、日本を極東の脅威として認識するべき時が来た、と書いた。

日本はロシアと違って、領土問題を軍事力で解決しようとすることはない。近年自衛隊を増強し、例えば2500トン以上の海上艦艇数ではロシアの太平洋艦隊を約5対1と圧倒しているが、これはロシアに向けられたものではない。それなのに、なぜロシアは急に騒ぎ出したのか。

と思って、つらつら考えると、日本が北朝鮮のミサイルや台湾有事に備えて取った措置を、ロシアは自分に向けられたもの、アメリカが日本を使って自分に向けたもの、とみているのだろうと思い当たる。

まず、日本はアメリカから中距離巡航ミサイル「トマホーク」を数百発購入、イージス艦に配備するための準備を始めた。アメリカはドイツにも中距離ミサイルを配備しようとしている。ロシアは欧州では中距離核ミサイル「イスカンデル」でドイツ、極東では中距離巡航ミサイル「キンジャール」などで日本を狙える態勢にあるが、自分が狙われると危ないことをするなと騒ぐ。

西の脅威はドイツ、東の脅威は日本

次に、最近日米が兵力の統合運用体制を強化していることも、アメリカがロシアを東から脅すのに自衛隊を使おうとしているように見えるようだ。

さらに安倍政権以来、日本はNATO本部との関係を緊密化し、英独仏などNATO諸国の軍艦、軍用機が日本に来航するケースが増えていることも、ロシアの神経を逆なでする。こうしてロシアにとっては、「西の脅威はドイツ、東の脅威は日本」という、戦前の構図がよみがえってきた。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:メキシコ大統領の「対トランプ」戦略が高評

ワールド

ウクライナ和平「就任初日」公約は誇張、トランプ氏側

ビジネス

昨年の訪日外国人は最多の約3687万人、消費額も過

ワールド

韓国大統領、取り調べで沈黙守る 録画も拒否=捜査当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 6
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 7
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 8
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 9
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 10
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story