コラム

アベノミクスの負のパズルにはまった、岸田政権はこのまま立ち枯れ?

2023年11月14日(火)16時00分
岸田首相

「減税」を打ち出したのに岸田政権の支持率は危険水域へ KIYOSHI OTAーPOOLーREUTERS

<今の政権には世論の流れを汲んで政策にうまく色付けする知恵者がいない>

岸田政権も落ち目になって、焦りが目立つ。起死回生の一発の意気込みだった「デフレ完全脱却のための総合経済対策」も、4万円の一時金支給が全てと誤解され、あきれられている。政権発足時には、「これからは大きな選挙がない黄金の3年間。だから思い切ったことができる」という触れ込みだったのに、いつも尻すぼみに終わる。

3月には蛮勇を振るってのウクライナ訪問、5月には被爆地広島でのG7サミットと、「さすが。外交の岸田」と思わせた。歌舞伎で言えば、立役が大見えを切って柝(き)が入り、奥の幕が落ちると場は総選挙──と思ったのが、立役はそのままずっこける。地方選で維新が躍進するなかで公明との連立が危うくなり、マイナカードと健康保険証の統合問題もあって、6月中旬には総選挙は当面やらないと表明する羽目に。そこまで正直に言わなくてもいいのに。

この状況、岸田首相1人の性格と資質に責を帰する向きもあるが、資質に欠ける首相ならこれまで何人もいた。問題はもっと広く深い。まず、アベノミクスの残した負のパズルは、誰が首相でも解きにくい。

「異次元の金融緩和」と財政支出拡大で、正規労働者だけでも約150万もの雇用を生み出したのはいいが、異次元から元の次元に戻れなくなってしまった。つまり金融緩和を続けると、利上げに転じた他の先進諸国に資金が流れ、円安を起こす。それはインフレを悪化させ、賃金の実質的な目減りを起こす。この春、大企業は社会の圧力を受けてやっと平均3%強の賃上げを実現したが、インフレの進行で実質賃金は1年で2%強下がるというちぐはぐぶりだ。

「総理1人で何でも決める」のツケ

かと言って利上げに転じれば、低金利で何とか生き延びている中小企業は大量に倒産するだろう。そして金利が上がれば、国債の利払いは増加して予算を圧迫する。それよりも、利上げで急激な円高になり、株は下がり、経済はデフレに逆戻りしかねない。昨年は円安効果で4兆円も増えた税収も、円高になれば輸出企業の利益は減少するから法人税収は下がり、物価上昇が止まれば消費税収も伸びない。株価が下がるだろうから、個人所得の税収も減る。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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