コラム

イスラエル・ハマス戦争は、ウクライナに停戦をもたらすのか?

2023年10月20日(金)17時15分

ウクライナに向けられていた欧米の支援は縮小される? SOFIA GATILOVA―REUTERS

<欧米がウクライナに対して早期停戦への圧力を強めるかもしれない>

今月7日にハマスとイスラエルの軍事衝突が始まった時、「これでウクライナ戦争は終わりだ」と筆者は思った。なぜか?

ウクライナは西側からの大量の支援を受けても、ロシアから領土をほとんど取り返せていない。その中で、アメリカからの支援は先が見えなくなってきた。米議会は民主・共和両党の過度で不毛な対立に加えて共和党内が分裂。下院議長不在の状況で、来年度予算採択の見通しが立たず、11月には政府閉鎖の危険性すらある。そうなれば、ウクライナ支援の予算も尽きる。

そしてアメリカは、イスラエルに兵器・弾薬を手厚く送らざるを得ない。アメリカでのイスラエルロビーはウクライナロビーの力をはるかに上回る。アメリカの弾薬庫は既に空になりつつあり、ウクライナに回る分は一層少なくなるだろう。

そんななか、「ハマスが使っている自動小銃はアメリカがウクライナに供与したものの横流し品だ」というニュースをロシアが広め始めている。もしハマスが米製の対戦車ミサイル、ジャベリンでイスラエルの戦車を破壊し始めようものなら、「ジャベリンはウクライナが闇市場に横流ししたものだ。ハマスが戦闘員をウクライナに送り、ジャベリンの使い方を覚えさせたに違いない」という見方が広がり、米国内のウクライナ支援の機運は一気にしぼむだろう。

というわけで、西側はウクライナに対して早期停戦への圧力を強める。ウクライナ極右派は抵抗するだろうが、政府は停戦に向かって動き出す。ロシアはどうか? ウクライナがこれから兵員・兵器の確保でますます苦しむのに対して、ロシアは少なくとも兵器の面では優位に立つ。

核保有国ロシアは「大きな北朝鮮」

ロシアはウクライナ東部・南部の4州を併合する法的手続きを済ませ(もちろん国際的には効力を持たない)、9月には統一地方選挙も実施した。プーチンとしてはこれら諸州の全域を武力占領したい。しかしこれからの冬季に大規模な戦闘は難しいから、来年3月のロシア大統領選挙までを意図して停戦に応じることはあり得る。

朝鮮半島の停戦は70年余り続いているが、このウクライナの「停戦」は、頻繁に破られることだろう。朝鮮半島では、韓国に米軍が駐留を続け、北朝鮮に対して韓国を守る意思を強烈に見せつけているから、停戦協定は破棄されない。ウクライナではそれがない。ロシアもウクライナも、攻撃を頻繁に仕掛け合うだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story