「プリゴジンの乱」で、プーチン早期退陣の可能性が出てきた
24日のテレビ演説でプーチンは、ワグネルの行為を「裏切り」と強い口調で糾弾した Kremlin.ru/Handout/REUTERS
<ロシアが混乱状態に陥れば、予測不能で核兵器も持つロシアは世界にとって危険な存在に>
傭兵は、カネの切れ目が縁の切れ目。犬は捨てられると、飼い主にかみついてくる。1979年のソ連のアフガニスタン侵入後、アメリカが支援した反ソ連・ムジャヒディンの勢力は、ソ連軍撤退後はアメリカに見捨てられて、反米テロリスト集団「アルカイダ」に衣替えしている。
今回のプリゴジンの乱については、プリゴジン特有の大げさな物言いが横行していて判断を鈍らせるが、昨日までのロシア・西側の報道を総合すると、実情は次のようなものだろう。
プリゴジンが囚人から身を起こし、ケータリング・サービスで軍に取り入り、プーチンに取り入り、「プーチンの料理長」と呼ばれるようになったのは周知の事実。その後、彼は「軍隊ケータリング」、すなわち傭兵業に手を伸ばす。2014年、ロシア軍が東ウクライナに侵入した時、米国の傭兵会社が活動していたが、ロシア軍諜報部GRUは同じような企業をロシアにも作っておくと便利だと思い、プリゴジンをくわえこんだのだろう。
しかしプリゴジンのワグネル社は、ロシア軍には敵視される。国のカネで活動しているのに(プーチンは27日、2022年5月からの1年間で、政府がワグネル社に兵員給料・賞与用に約10億ドル分の資金を払ったと言っている)、軍の命令を受けず、「いいとこ取り」ばかりするからだ。2015年秋にはロシア軍とともにシリアに駐留したが、この時も夜間勝手に油田の接収に向かい、守っていた(とは知らなかった)米軍から壊滅的な攻撃を受けている。ロシア政府は「ワグネルは民間会社」ということでしらを切ったが、本当は米ロの軍事衝突すれすれだった。
これでワグネルはさすがに中央から冷や飯を食わされ、リビアとか中央アフリカ共和国でのドサ周りをさせられる。ここで地元の鉱産資源利権などに食い込もうとしたが、多分うまくいかなかったのだろう。2022年2月、ウクライナ戦争が始まると、欧州に舞い戻る。
そして戦線が膠着すると、ワグネルは中央から便利に使われ始めた。ロシア軍が兵員確保に苦労する中で、ワグネルは月2000ドルを超える給与を提示。戦死保険まで備えて、兵員を募集した。そして100万人に上る囚人という人材プールに目を付け、当局とのコネで囚人を戦線に叩き込む。死刑の代わりに。
この半年、ワグネルは「バフムトの戦い」の主役だった。冬季に軍は大きく動けないが、戦略拠点(と言うほどでもない)のバフムトを決戦の場に仕立て上げて、ウクライナ軍を消耗させた。ロシア軍本体は温存され、二重・三重の塹壕・堡塁線と地雷原を構築した。
この防御線のせいで今、ウクライナ軍の逆攻勢は止められていて、ロシア軍の間では「ドネツクでのサファリ」という言葉が流行している。つまりドイツがウクライナに供与した戦車レオパルト(豹)を鹵獲(ろかく)、あるいは破壊しに行こうと言うのだ。ウクライナ軍が消耗した時を見計らって、ロシア軍が逆逆攻勢に出れば、占領地域を拡大することができるだろう。
これで、ワグネルは不要になった。カネがかかるし、弾薬をやらないとすぐ国防相や総参謀長の悪口をSNSに書き立てる。これはもう、軍の中に吸収してしまおうということで、6月末にはその契約への署名受付を始めることになった。
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