コラム

日独の悲哀「敗戦国はつらいよ」

2023年02月11日(土)11時30分

戦車供与の決断が遅れたショルツ首相は批判にさらされた AGUSTIN MARCARIANーREUTERS

<日本もドイツも戦後長らく、戦勝国からの多大な圧力にさらされてきた>

ドイツは1月25日、その工業力の華、「レオパルト2」戦車をウクライナに供与することを決めた。アメリカも「戦車M1エイブラムズを供与する」と表明したが、これでロシアから「主要敵」扱いされ、ウクライナ戦争調停の権利を失うこととなった。

戦車があれば戦局が変わるものでもなく、今回ロシア軍はウクライナから横流しされた対戦車ミサイル「ジャベリン」を持っているという報道さえあったのだが、供与を渋るドイツはNATO内部で孤立。ロシアの天然ガスをドイツに輸送していたバルト海底パイプラインも爆破され、国内需要の実に40%以上の天然ガスを求めて世界中を走り回らされる羽目となった。

これを見て、「敗戦国はつらいよ」とつくづく思う。軍事力を低い水準に抑え込まれているから発言力は限られるし、道理を言っても、最後は戦勝国からの圧力でつぶされる。1982年のフォークランド紛争(アルゼンチンが自国沖の英領フォークランド諸島を占領してイギリスと戦争になった)では、英米から「西ベルリンの安全は誰が守っていると思っているんだ?」という露骨な圧力を受け(冷戦中、東ドイツ領内の陸の孤島西ベルリンは英米仏の「連合軍」に守られていた)、イギリス支持を表明せざるを得ない羽目になっている。

筆者はこの時、外交官として西ドイツに勤務していたのだが、西ドイツの外務省員ははらわたが煮えくり返るといった形相だった。

日本も抱える敗戦国のジレンマ

92年、日本との関係を改善して資金をせしめようと考えたロシアのエリツィン大統領は言った。「ロシアは(ソ連と違って)、戦勝国・戦敗国の立場を離れて、日本との関係を推進する用意がある」と。戦後世代の筆者などは、「え! そんなふうに日本を見ていたのか」と思って驚愕したものだが、残念ながら、こうした見方はロシア人だけではない。肝心のアメリカがそうだし(日本が過度な依存を続けるからだが)、マッチョのアラブ人も「原爆を投下されながらアメリカに付き従っている」日本をなめている。外交官をやっていると、時々「この野郎」という気持ちにさせられたものだ。

しかし日米安保は端的に言えば、戦後占領体制の終了を求めた日本に、「米軍基地付きなら独立を認める」ということで結ばれたものだ。そして日本人が今、平和のための金科玉条とする憲法第9条は、敗戦国の武装解除を憲法条文にしたものとも言える。日米安保は60年の改定で少しはましになったが、戦後の日本は「敗戦国」体制に自らの意思、そしてソ連などによる工作でどっぷりとつかってきたのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story