エルドアンはユーラシアに蘇る現代のスルタンか
トルコは2023年に総選挙と大統領を選出する国民投票が実施される Umit Bektas-REUTERS
<落ち目のロシアを尻目に、かつてのオスマン帝国の栄光を取り戻すかのように中東、コーカサス、中央アジアでトルコが存在感を高める>
遮るもののない広大なユーラシアでは古来、さまざまな帝国が興亡を繰り広げてきた。ペルシャ、モンゴル、オスマン、そしてソ連。「帝国」の心は他人の領域に攻め込んで、囲い込むことにある。戦争で縄張りを奪われた日本は、米主導の秩序の中で「自由貿易」の旗を掲げて市場を確保してきたが、いつまで持つか。
その点でいま注目するべきは、落ち目のロシアの縄張りに食い込み始めたトルコ。そしてこの上げ潮の国を率いる不倒のリーダー、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領ではあるまいか。彼は「汎テュルク主義」を掲げて、コーカサス、そして中央アジアの囲い込みを狙う。
2003年に首相に選ばれ、権力を握ったエルドアンは以来20年弱、14年に大統領に転じつつも、常に実権を握るリーダーとして君臨。1922年にオスマン帝国が崩壊して以降、西欧に依存してきたトルコの存在感、そして発言権を大きく高めた。
親西側の牙城だった軍の幹部を粛清
03年以来、トルコはロシア、中央アジアにまで手を広げる強力な建設業、そして地道に強化してきた自動車・電機生産でGDPを実に約3倍にした。この勢いを背景に、エルドアンは強気の外交を展開する。当初はそのイスラム色を隠してEU加盟を試みるも、西側がトルコへの「差別」をやめないとみるや、路線を転換。中東、コーカサス、中央アジア諸国への影響力拡大へと乗り出す。
そして、国内ではイスラム色を前面に出して大衆の支持を固め、親西側路線の牙城だった軍の幹部たちを、クーデターを計画したとして粛清。軍を使いやすいものにした。トルコ軍はNATOの欧州加盟国の中で断トツの兵力を誇る。シリア、イラクに越境攻撃してクルド人と戦っているが米欧はこれを止めかねている。
今、ユーラシアは紛争のオンパレードだ。ウクライナ戦争は言うに及ばず、アゼルバイジャンとアルメニア、キルギスとタジキスタンの領土紛争が同時進行。その全てにエルドアンの影がちらつく。ウクライナから穀物が安全に搬出されているのはエルドアンの口利きによるものだし――ロシアもトルコの言うことを聞かないと、ボスポラス海峡の通航を邪魔されると危惧している――軍事力を支えられているが故に、アゼルバイジャンもトルコの言うことは聞く。
そしてロシアのウクライナ侵攻に怯えたカザフスタン、キルギスは最近ロシアと距離を取り、トルコに接近。エルドアンはこの半年、中央アジア諸国に頻繁に飛んでいる。
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