安倍元首相、銃撃を招いた日本型ポピュリズム社会
安倍元首相ほど、「沈んでしまった日本を再び持ち上げる」ということを意識し、明確な目標に据え、それに向かって力強く、かつ巧妙、長期に仕事を進めた政治家は日本にいないだろう。今でも忘れないのは、2012年12月に彼が首相として再登場し日本再生を打ち上げると、翌13年5月に英エコノミスト誌がスーパーマンに扮した格好で飛来する彼のイラストを表紙にしたことだ。
丁々発止の外交で存在感
以後、実に8年弱にわたって、筆者は「しかるべき人物が首相の座に座っている日本」を堪能することができた。首相には外国で日本のイメージを高めるような見栄えのいい、そして外国の首脳の懐に飛び込んで丁々発止の外交ができる利発さが求められる。
「外交」の大半は、実は日本の国内で方針を固める際の調整なのだが、こういうとき諸方に人脈を持ち、説得力と腕力を持つ首相がいることは本当に心強い。
安倍元首相の功績は、使い古された言葉だが、「枚挙にいとまがない」。何といっても、13年7月の参議院選挙で勝利して以降、長期にわたり安定した政治・経済の枠組みを提供したことが挙げられる。
そして、アベノミクスによるデフレ傾向の抑制。バラク・オバマ元米大統領やドナルド・トランプ前米大統領、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、インドのナレンドラ・モディ首相などの懐に飛び込んでの対大国外交。
中国と韓国に対しては筋を通したが、かといって不要な対立は避ける現実的な外交。TPP(環太平洋経済連携協定)からアメリカが離脱したときに一部の先進国をねじ伏せて成立にこぎ着けた矜持と粘りと剛腕──。
19年、大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)で、両脇にトランプと中国の習近平(シー・チンピン)国家主席を並べて議長席に座った安倍元首相は、あるべき日本外交の姿をこの上ないほど世界に印象付けた。
悲願だった憲法改正は達成できなかったが、安倍元首相は安保関連法案の成立で日本の安全保障問題を不毛な「神学論争」から解き放った。革命的な業績はなかったが、革命は今の日本に必要ない。時代が求める改革は、きちんとやり遂げている。
2度にわたる消費税引き上げもそれに入るだろう。安倍元首相の死去は、今後の日本の政治・経済にどういう影響を与えるだろう。
まず内政では、94人と自民党で最大の人数を擁する安倍派の解体が始まる。彼に代わる有力者は見当たらないし、有能な若手も全員を結集するのは無理だろう。参院選後は国政選挙を3年間はやらなくてもいい稀有な安定期に差し掛かるので、自民党は安心して派閥の再編成にふけることになる。しかしそれは、岸田首相を引きずり降ろす政局の方向には動くまい。
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