コラム

トランプ退場で歴史は再び明るい未来へ進歩を続ける、のか

2021年01月06日(水)16時30分

世界各地で反政府デモが起きているが……(写真はタイ) SOE ZEYA TUNーREUTERS

<各国で勃発する反政府運動だが、そこに近代化社会を見通すのは難しい。それぞれの歴史が生んだ社会が障壁となって個人の自由や権利を享受することができなくなっている>

トランプ米大統領もとうとう退場に向かう。

「自由」と「民主主義」の二語を口にすることのなかったアメリカ大統領がいなくなることで、歴史はまた明るい未来への進歩を続けることになるのか?

そういえば、この頃「権利に目覚めた市民」たちが自分たちの強権主義政府に物申す例が増えている。香港では若者が、タイでも学生らが自主的な運動を繰り広げ、それぞれ共産党と王室への批判をためらわない。

ロシアでは(2020年)7月、極東ハバロフスクの知事を当局が拘束してモスクワに連行したことに対して、市民が自発的(に見える)大規模デモを毎週末繰り返した。そしてベラルーシでは、(同年)8月9日の大統領選に大規模不正があったとして、10万人規模のデモが週末のみだが3カ月以上続いた。

これは18世紀末から西欧で本格的に相次いだ市民革命のように、社会を一気に近代化させるものなのだろうか?

いや、状況は厳しい。2003年11月ジョージアでの「バラ革命」、04年11~12月ウクライナでの「オレンジ革命」などと違い、近年の反政府運動はどこも政権交代などの要求を貫徹できずに終わっている。カリスマ性を持つリーダーもおらず、SNSで何となく集まる人々だからメリハリがない。それに国民の大多数は、インテリの唱える「自由」とか「民主主義」などより、国営企業での働き口や賃金に関心がある。

以前は、反政府派が議会や行政府の建物を占拠することで政権の辞任を強要したが、近年は当局を挑発して弾圧の口実にされることがないよう平和デモに徹していることも、当局を増長させている。なぜそうなるかというと、おそらくアメリカの支援が期待できないことが大きいだろう。

トランプ以前は、米議会が全米民主主義基金(NED)を通じて年間約1億5000ドル以上もの予算を超党派でNPOなどに付与し、国外での民主化を支援していた。これらの活動のほとんどは政権交代後の混乱を生むばかりで、大衆の生活や権利の向上にはつながらなかったので筆者は批判的なのだが、反政府運動を率いる人々にしてみれば、アメリカという後ろ盾がなくなったことは大きなマイナスだろう。

18世紀半ばに起きた産業革命は、米欧日では広汎な中産階級を生み、彼らが一人一票を投じる選挙を通じて20世紀後半からの歴史をつくった。しかし産業革命は世界全体の人々の暮らしを良くするには至っておらず、中国のように本当の意味での選挙さえない国も残る。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ両軍トップ、先月末に電話会談 ウクライナ問題な

ワールド

メキシコ当局、合成麻薬1.1トンを押収 過去最大規

ワールド

台湾総統、民主国家に団結呼びかけ グアム訪問で

ワールド

東欧ジョージア、親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 9
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 10
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story