コラム

霞が関が支配する日本の行政、シンクタンクに存在意義はない?

2019年11月12日(火)16時30分

国内最大の「シンクタンク」は霞が関 kanzilyou-iStock.

<アメリカでは絶大な力をふるう民間の政策集団であるシンクタンク。では日本のシンクタンクはどうか。その知られざる役割と限界を明かす。本誌「シンクタンク大研究」特集より>

シンクタンクと言ってもさまざまだ。シンクタンクをめぐる状況は日本、アメリカ、欧州、中国、ロシアでそれぞれ異なり、それに応じて果たす役割も変わってくる。
20191119issue_cover200.jpg
日本では政府の諸省庁が、それぞれの担当分野で最大のシンクタンクとなっている。官僚は国家試験で採用され、年功序列の終身雇用(内部の競争は熾烈だが)であり、アメリカのように政治任用で民間と政府の間を出入りすることはほとんどない。

だから、いくつかある国際関係についての民間シンクタンクは、政治家や官僚、財界、マスコミのOBをトップに頂き、若手は大学などでの安定した職を求めつつ、数年間ここで研鑽に励む──となりやすい。では、日本のシンクタンクの存在意義は薄いのか。

そうでもない。まずシンクタンクの研究者は官僚より自由に発言できる。だから彼らの主宰するセミナーやシンポジウムは、筆者のように政府の外にいる者にとって貴重な情報収集の場となるし、本音の議論を通じて自分の意見を磨く機会にもなる。そのような議論は多数の専門家が共有するから、日本の世論形成にも資する。

そして日本のシンクタンクの人たちは、外国のシンクタンクと交流したり、海外のシンポジウムに出席したりすることで、種々の問題について国際世論の形成にも参画している。日本の存在を印象付けることも大事な仕事だ。これを「トラック2」のチャンネルと言う。「トラック1」が政府間協議の公式チャンネルであるのに比し、トラック2ではさまざまな仮説を議論し、柔軟な意見交換ができる。

このように、日本のシンクタンクは国内でも国外でも情報の伝播、世論形成において不可欠な存在なのである。

一方、実際の政策形成に日本のシンクタンクがどこまで関わっているかと言ったら、そこは別の話になる。実際の政策というものは、ナタで手術をするようなもので、メスで細かい作業をやっている時間はない。大まかな方向を決めたら、政治家や官僚の仕事のほとんどは既得権益集団の説得、その手段としての予算の獲得、与野党内の根回し、マスコミの抱き込み、少々の出血は致し方ない......となる。

そういう「鉄火場」にいる官僚や政治家に、シンクタンクのしかつめらしい「何々はこうするべし」という政策論は、ただ煩わしいだけ。高層ビル建築に例えるなら、政府にとって欲しいのは設計者より地上げ屋なのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story