コラム

米中去って日本の出番、今年の好機は東南アジアにあり

2019年01月19日(土)15時00分

インドネシア大統領選など東南アジアは波乱の予感 VM_Studio/iStock.

<内向きの米政治と下向きの中国経済が東南アジアを直撃......日本はオーストラリアや韓国と共に空白を埋める好機>

東南アジアは30年くらい前までは遅れたイメージがあり、あまり注目されなかったものだ。しかし今ではASEAN全体のGDPはロシアの2倍近くで、1人当たりの平均所得は4500ドルを超えた。一般国民に自動車保有のブームが本格化する5000ドルの線に近づきつつある。

東南アジア諸国はASEANという、緩いがそれなりの統合体を形成して、米中両国からの圧力をかわす盾としている。

東南アジアはこれまで、順調に発展してきた。タイは自動車産業、マレーシアは電機・電子産業のハブになった。後発のベトナムも近年の成長率は6%を超え、剛腕のドゥテルテ大統領が力で安定化を実現しているフィリピンは12年以来、一貫して6%以上の成長を続けている。

しかし、昨年から東南アジアをめぐる基本的な枠組みが変わり始めた。1つは、トランプ米大統領がアメリカの役割を大きく削る可能性があるということだ。17年10月、フィリピン政府軍は南部ミンダナオ島マラウィを占拠したテロ組織ISIS(自称イスラム国)に忠誠を誓う過激派を掃討したが、これにはオバマ前米政権時代の兵器供与と情報提供が大きな役割を果たした。

米軍は92年に同国北部ルソン島のスービック海軍基地から退去していたが、14年にフィリピンと新軍事協定を締結して同基地の使用を再開している。シンガポールには、兵站の名目で米海軍要員が100人以上常駐する。南シナ海での中国の人工島建設を牽制する、米海軍の「航行の自由」作戦も重要だ。内向きのトランプはこうした積み重ねをぞんざいに扱うだろう。

潮目は選挙と高齢化問題

もう1つの変化は、アメリカが退潮していく一方、中国経済も下降気味になって進出の勢いがなくなっていくことだ。一時話題になったアジアインフラ投資銀行(AIIB)は債券を発行して資本を増強することもなく、鳴かず飛ばず。これから中国の外貨準備減少が本格化すれば、「一帯一路」経済圏構想は立ち消え同然になる。

この2つの変化によって、東南アジア諸国は自力で安全保障と経済発展を図らなければならなくなる。南シナ海を狙う中国が退潮すれば安全保障面では一安心だが、経済面ではこれまで中国やアメリカ、日本と築いてきた分業体制に修正が迫られる。

例えば、中国の珠江デルタ地帯と一体化して発展したベトナム北部の経済は、その在り方を変えなければならない。そして欧米資本だけでなく、中国資本も中国からASEANに生産拠点を移して対米輸出を図るようになる。

トランプがなりふり構わずASEAN諸国にさえ米国内での現地生産を求めるようなことがあれば、経験不足の東南アジア企業のために対米直接投資を請け負う新たなビジネスが生まれるかもしれない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日製副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story