ポピュリズム時代のアメリカと日本はどう付き合うか
アメリカ政治の今後を決するのは低所得層か(ボストン) Lane Turner-The Boston Globe/GETTY IMAGES
<中間選挙直前のボストンで襲われた「途上国」の錯覚......元外交官が説く脱エリートの実感的日米外交論>
米中間選挙直前の10月末、ボストン郊外の民宿に1週間泊まり、市民の生活を見る機会があった。全米で最も古いボストンの地下鉄は市が予算を回さないため、ますます古びて、不愛想なプラスチックむき出しの座席にはさながら「世界中の」人種・民族が座っている。
65年に移民法を改正し、欧州白人以外の移民を大量に受け入れ始めて半世紀余り。都市部は完全に多民族社会となり、街頭に欧州系白人はまばらにしか見えない。都市インフラの整備の悪さや低所得層の生活を見ると、途上国にいる錯覚に襲われる。
そのくせ郊外の森には高所得層向け老人ホームが城のようにそびえ、圧倒的に白人社会だ。低賃金でモーテルの一室を仲間とシェアして何とか暮らす大衆社会と上下に分かれ、間を埋めるべき中産階級の存在感がない。
ボストンに限らず、こうした低所得層の大衆は理屈では動かない。国や世界よりも自分の生活を守り、良くすることで精いっぱいだ。そこでポピュリズム(大衆迎合主義)のトランプ米大統領は、イスラム系移民やメキシコや中国を諸悪の根源と名指し。財政赤字も何のその、大減税の大盤振る舞いと出た。
新たな移民や中国などからの輸入で職を脅かされていると感じている大衆は、人種を問わず大喝采。「悪者」を仕立て上げてこれに大衆の不満を向け、バラマキで懐柔――これはロシアのプーチン大統領も使うポピュリズムの手法そのもの。大衆を利用して権力の座に就き、その後のつじつま合わせで苦労する。
アメリカが移民の大波を受けて統合に苦労するのは、今回だけではない。19世紀末には東欧、南欧諸国の移民が急増。人口は1850年の約2300万から1920年には1億600万人となった。これに電化生活や自動車文明の到来、第一次大戦の戦争特需が重なり、GDPは急増。超大国化の土台を築いた。
ぎごちないコスプレ大会
だがアメリカは国民を戦争に駆り立てることが難しくなっていった。19世紀末、ハワイだけでなく、米西戦争によるフィリピン、プエルトリコ、グアムの併合など、帝国主義的拡張政策を進めたアメリカは、第一次大戦ではぎりぎりまで中立を決め込んだ。37年に日中戦争が始まった当初も、日本の進撃に目をつぶり、中国を助けようとしなかった。
今、米軍は世界中に展開している。将校は先祖代々軍人というエリート階層が増えているのに対し、下士官と兵士はその多くが「大衆」だ。彼らは、軍隊で数年勤めれば大学に奨学金で通え、年金や医療保険でも優遇されるから志願する(徴兵制はベトナム戦争後、停止されている)。平時はこれで機能するが、今は軍上層部の中ロ敵視発言にあおられてか、軍内では戦争が近いという懸念が急速に広がっている。下士官や兵士への志願者は減るかもしれない。
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