コラム

シリア内戦の最終局面 停戦のカギを握るのは「トルコ」だ

2018年10月14日(日)11時05分

つまり、アサド政権軍を「悪」、トルコ軍を「不信仰者」と双方を断罪している。イスラム系と言われるエルドアン政権だが、解放機構やフッラース・ディーンのような厳格派から見れば、相容れない存在である。

非武装地帯の設置は、穏健派と過激派を選別するプロセス

非武装地帯にはトルコ軍の停戦監視ポストが置かれ、トルコ軍がロシア軍とともに監視業務を担う。9月下旬からトルコ軍の特殊部隊がイドリブ入りしている。非武装地帯の設置期限である10月15日の後、過激派が非武装地帯で軍事行動を行えば、アサド政権軍やロシア軍よりも前に、トルコ軍と敵対することになる。

ロシア・トルコ合意の後、トルコ大統領府のイブラヒム・カルン報道官は「シリアの危機やイドリブ問題、テロとの戦いなどで、トルコがすべての責任を負うのは受け入れられない」と記者会見で語った。イドリブでのイスラム過激派対策が実質的にトルコの対応にかかっていることは否定できないが、トルコの力だけで状況を支配できるわけではない。

トルコ軍が停戦監視を始めて、イスラム過激派が非武装地帯から政権支配地域を攻撃したり、政権支配地域で自爆テロを行ったりすれば、アサド政権軍はイドリブに大規模な空爆をかけることになる。そうなれば、トルコ軍としては紛争に巻き込まれないために非武装地帯から撤退する選択肢しかない。

逆に、非武装地帯からの過激派の攻撃がなくとも、政権軍やロシア軍が反体制支配地域でイスラム過激派の軍事拠点があるという口実で空爆をすることで、停戦が崩壊する可能性もある。

トルコにとっては過激派と戦闘状態に入らないことが最優先の課題となろう。停戦を継続させるためには、トルコが解放機構やフッラース・ディーンなどのイスラム過激派内の国内勢力を取り込みつつ、一方で過激派の中に少なからずいるとされる外国人勢力を排除する必要がある。非武装地帯の設置は、反体制勢力のうちで穏健派と過激派を選別するプロセスでもある。

解放機構の外国人幹部が「聖戦継続」を掲げる一方で、解放機構は9月末に国民戦線と非武装地帯について協議をしたとされ、10月初めには、拒否派のフッラース・ディーンが政権支配地域のラタキア県に軍事攻撃をしようとするのを阻止した、というニュースも出ている。イドリブでの最強勢力である解放機構の国内メンバーが、トルコと連携、協力して生き残りを図ろうとしていることがうかがわれる。

外国組がトルコに逃げ、国内でテロの脅威が強まる可能性も

トルコは2017年5月にロシア、イランとともにカザフスタンの首都アスタナで開いた和平協議によって、イドリブ県周辺を含む4つの反体制地域に「緊張緩和地帯」を設けることで合意した。その後、イドリブ以外の3カ所はアサド政権軍による激しい包囲攻撃で制圧され、イドリブが最後に残った。ただし、イドリブ県ではトルコが繰り返し越境作戦をして、反体制勢力を支援し、地域に強い影響力を行使している。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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