コラム

消費低迷の特効薬は消費税減税だ

2016年03月02日(水)17時25分

 そして財政政策を考える際には、デフレ脱却ないし金融政策の出口政策のタイミングも合わせて考慮することが必要だ。安倍政権が2017年4月に消費税増税を延期した当時の金融政策・財政政策のシナリオは次のようなものであったと考えられる。つまり、2016年半ばまでに2%のインフレ目標を達成した上で、インフレ率が安定化したことを確認して2017年4月に消費税増税に踏み切り、消費税増税の影響が一服した段階で金融政策は出口政策に移行していくというシナリオだ。

【参考記事】マイナス金利は実体経済の弱さを隠す厚化粧

 しかし、消費税増税を主因とする総需要の低迷や原油価格の大幅な低下により、日銀は2%のインフレ目標達成時期を2017年度前半頃まで後ずれさせている。これを念頭におくと、予定通り2017年4月から消費税増税を行えば、デフレ脱却を完全に果たし得ないまま政府は再び増税に踏み切ることになる。デフレ脱却を果たさぬまま消費税増税を行った場合、その悪影響を抑制するための財政政策はほぼ効力を持ち得ない。それは2014年度に実質GDPマイナス成長という高い代償を払って既に学習済みだ。

 つまり、政府が行う財政政策、日銀が行う金融政策の今後のシナリオ、ポリシーミックスという観点からも、2017年4月の消費税増税は延期すべきなのである。

消費拡大のための財政政策とは

 さて、先程述べた金融政策・財政政策のシナリオを考慮しつつ、家計消費を再拡大させるための財政政策はどうあるべきか。財政政策のメニューは、定額給付金、社会保険料の一時的減免、低所得労働者を対象とする給付付き税額控除など様々なものが考えられるが、最も効果が大きいと考えられるのは「消費税減税」だろう。消費税減税のメリットは、簡明かつ現下の家計消費の落ち込みに直接影響を及ぼせることだ。わが国の総需要(実質GDP)と総供給(潜在GDP)の差であるGDPギャップは、内閣府の試算によれば7兆円弱のデフレギャップ(総需要不足)の状況にある。

 また図表における家計最終消費の2015年10~12月期実績値と、2015年10~12月期のトレンドとの差を計算すると、現状の消費をトレンドの水準まで復帰させるために必要な金額は8.1兆円だ。消費税率1%に相当する税収を2.7兆円とすれば、8%から5%への消費税減税の規模は8.1兆円(2.7兆円×3=8.1兆円)となる。以上からはデフレギャップを埋め、かつ「消費の底割れ」が生じている家計最終消費支出をトレンドに引き戻すためには8%から5%への消費税減税を行う必要があることがわかる。

プロフィール

片岡剛士

三菱UFJリサーチ&コンサルティング、経済・社会政策部主任研究員
1972年生まれ。1996年慶應義塾大学卒業後、三和総合研究所入社。2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了、2005年より現職。早稲田大学経済学研究科非常勤講師、参議院第二特別調査室客員調査員、会計検査院特別研究職を兼務。専門は応用計量経済学、マクロ経済学、経済政策論。著作に『日本の「失われた20年」――デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、第4回河上肇賞本賞受賞)、「日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点」(幻冬舎)など多数

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