コラム

消費低迷の特効薬は消費税減税だ

2016年03月02日(水)17時25分

 アベノミクスが開始された2013年以降の消費の動きをみていくと、家計最終消費支出はトレンドを示す黒い点線から上ぶれる形で推移して、2013年4~6月期以降はほぼ赤い点線上限近辺で推移していた。これは、アベノミクスにより家計最終消費支出の拡大が生じ、それが2002年から2012年までの家計最終消費支出のトレンドから統計的に有意な形で上ぶれつつあったことを意味する。

 そして消費税増税の駆け込み需要が生じた2014年1~3月期には一時的に上限を上回った。しかし消費税増税後には動きが一変する。今度はトレンドを示す黒い点線から実績値が下ぶれて推移して、ついに2015年10~12月期に家計最終消費支出は下限を下回ってしまったのである。これは統計的にみて「消費の底割れ」が生じたということだ。

 図表にはリーマン・ショック直後と東日本大震災の家計最終消費の値を明示している。東日本大震災が生じた2011年1~3月期の値は大きく落ち込んだものの、赤い点線の下限を超えて落ち込むという「消費の底割れ」はかろうじて避けられた。統計的にみて、家計最終消費支出の底割れが生じたのはリーマン・ショックから1四半期程度経過した2009年1~3月期である。2015年10~12月期の家計最終消費は2002年以降のトレンドで見て、リーマン・ショック直後以来2度目の「消費の底割れ」が生じていることを示しているのである。

【参考記事】市場:いよいよ終わりの始まりが始まった

 こうした動きが常態化してしまうと、家計最終消費支出のトレンドは下ぶれし、それが家計最終消費支出のさらなる停滞につながってしまう。2016年1月も2015年に引き続き低調な結果に終わり、その後も十分な回復が見込めない状況が続けば、家計最終消費支出は前期比0.2%増のトレンドから更に下ぶれる可能性が強まる。早期に対策を行うことが今求められているのである。

デフレ脱却前の消費税率引き上げは間違い

 ではどのような対策を行う必要があるのだろうか。図表からも明らかなとおり、家計最終消費支出の落ち込みが続く主因は2014年4月から始まった消費税増税である。安倍政権は2014年末に2015年10月に予定していた8%から10%への消費税増税を延期して、2017年4月からの増税を表明したが、その後も家計消費の低迷は続いている。

 前回のコラムでも述べたとおり、消費税増税の影響は税率が変わらない限り恒久的に続く。家計消費の低迷を打破するには、2017年4月の消費税率引き上げ撤回し、消費税増税時期を白紙に戻すことで先行きの消費への不安材料を払しょくし、合わせて8%の消費税増税の悪影響を乗り越える二段構えの財政政策が必要である。つまり10%への消費税増税の凍結と、家計消費を再拡大させるための財政政策が求められているのだ。

プロフィール

片岡剛士

三菱UFJリサーチ&コンサルティング、経済・社会政策部主任研究員
1972年生まれ。1996年慶應義塾大学卒業後、三和総合研究所入社。2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了、2005年より現職。早稲田大学経済学研究科非常勤講師、参議院第二特別調査室客員調査員、会計検査院特別研究職を兼務。専門は応用計量経済学、マクロ経済学、経済政策論。著作に『日本の「失われた20年」――デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、第4回河上肇賞本賞受賞)、「日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点」(幻冬舎)など多数

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