コラム

日韓戦の勝敗に一喜一憂した、「かつての韓国」はもはや存在していなかった

2023年04月04日(火)14時05分

韓国有数のポピュリストとして知られる李在明の舌鋒が向けられたのも、尹錫悦に対してであり、「岸田」の名は登場すらしなかった。

デモ隊が掲げるプラカードに書かれていたのは、「日本は謝罪せよ!」ではなく、「尹錫悦退陣!」であり、その雰囲気は例えば19年、日本政府の輸出管理措置に反発して行われた「NO安倍」運動とは全く異なっていた。

デモ隊が配るパンフレットやプラカードに岸田首相の顔写真や名前を探した筆者が見つけられたのは、辛うじて労働組合が配る新聞紙面上の写真だけだった。

これは「反日運動」ではなく、「反政府運動」だな、と思いながら、こうも考えた。もしそれが韓国の人々が日韓関係を冷静に考えられるようになった証しなら、それはきっと良いニュースなのだろう、と。

不人気なはずの解決案にもかかわらず、大統領の支持率に変化はほとんどなく、日本がWBCに優勝した日、韓国メディアに並んだのは日本代表を称賛する言葉だった。だとすれば、われわれの将来はそれほど悲観すべきではないのかもしれない。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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