コラム

イデオロギーで分断された韓国司法の真実

2021年06月30日(水)15時00分

かつて司法の場を利用して改革を追求したのは、「民主化」の旗を掲げる進歩派の側であった。しかし現在、政権は進歩派の側にあり、挑戦する保守派の側が舌鋒を鋭くして、これまでの判決を批判する状況が出現しつつある。

事実、一連の判決において、一見これまでの文政権下の司法の動きに反すると見えるものの多くは、特定の保守派色の強い裁判官たちによって書かれている。つまり結局、今日われわれが日韓両国の過去に関わる問題についての判決の揺れ動きとして見ているのは、韓国の司法における進歩派と保守派の対立であり、ソウル中央地裁における混乱した状況は、それが下級裁判所の比較的若い裁判官の間にまで、どれほど色濃く浸透しているかを示している。

そしてこのような韓国のイデオロギー的対立は、文在寅の任期が末期に近づくにつれ、さらに激しくなる。日韓関係に関わる判決にも典型的に表れているように、イデオロギー的対立の深化は、政治や経済、社会に関わる断絶をさらに大きくする。そして最後に来年の大統領選挙直前という状況が作用する。

現段階においては、進歩・保守両派のどちらがこの選挙で勝利するのかを予測するのは困難な状況にある。だが、それぞれが異なる正義を掲げる彼らにとって、裁判もまた、自らの奉じるイデオロギーと世界観の正しさを示す貴重な場である。だからこそ彼らは大統領選を前にして、自らの旗きし 幟をますます鮮明なものとさせていく。

もちろん、このような韓国の混乱した状況は、日本をはじめとする各国を大きな困惑へと導く。同様の状況は北朝鮮をめぐる問題や、中国との関係、さらには在韓米軍問題についても見ることができるからだ。

韓国のイデオロギー的分断は、分断が進む世界の中での大きな現象の1つであり、その影響は単に日韓関係のみにとどまらない。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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