コラム

もしも韓国が仮想敵国だったら?

2019年01月29日(火)17時00分

にも拘らず第二に、大法院判決からレーダー照射問題に至るまでの過程で、日韓両国、とりわけ日本の韓国に対する世論は大きく悪化している。産経新聞とFNNの調査によれば、レーダー照射問題について韓国側の説明に納得できない、と答えた人の割合は90.8%に上っており、日本国民の大多数がこの問題に対して韓国への批判を強めている事がわかる。同じ世論調査では、徴用工問題でも、「相応の対抗措置」を求める人が76.8%に達しており、一連の出来事以降、日本の世論は韓国への強硬一本やりと言って良い状況になっている。

勿論、今日の日韓関係を見れば、人々がこれに不満を高めるのは当然であろう。しかし、同時に考えなければならない事がある。それは中長期的な観点から見て、この状況をどうしていくべきか、という事である。

この点については幾つか考えなければならない事がある。最初に重要なのは、まずは日韓両国の共通の同盟相手であるアメリカとの関係である。軍事的或いは経済的に中国との対抗関係にあるアメリカにとって、自らの同盟国である日韓両国が互いにいがみ合う状態は決して望ましいものではない。2015年には慰安婦問題で対立する日韓両国へ、当時のオバマ政権からの強い圧力がかけられた結果、慰安婦合意へと至ったと言われており、事態がこれ以上悪化すれば、同様のアメリカからの介入が起こらないとも限らない。

とはいえここでも次の様な意見があるかもしれない。つまり、「問題を大きくしているのは韓国側であり、だからこそアメリカから圧力がかけられるとしてもそれは韓国側に対してだけになるだろう」と言うのである。だが、状況はそれほど単純なものではない。対中接近政策でオバマ政権の不評を買った朴槿恵政権と異なり、文在寅政権は対北朝鮮交渉を巡ってトランプ政権との連携を強めている。事実、第一回の米朝首脳会談に至る過程で見られた様に、アメリカ、より正確にはトランプ大統領にとって北朝鮮との交渉が重要である限り、米朝の仲介者としての韓国は存在感を発揮する事ができる。そして韓国がトランプ政権にとって重要である限り、彼らは自らへの圧力をある程度回避する事ができる。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

第一三共、発行済み株式の4.29%・2000億円上

ビジネス

午前のドルは143円台へ反発、日米財務相会談終え円

ビジネス

中国、世界経済の成長は不十分と指摘 G20会合で

ビジネス

日本ゼオン、発行済み株式の5.07%・100億円上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story