コラム

わが町の市への昇格が名誉だけど残念な理由

2022年07月01日(金)16時45分
コルチェスター城

コルチェスター城をはじめ数々の名所旧跡もあり長い歴史を誇り文化の香り高く人口も急増しているわが町コルチェスターは、市に昇格する資格十分……だったはず Public Domain

<ジュビリーを記念し僕が住む英エセックス州コルチェスターが長年の悲願を果たして市になったが、地域バランスを重視しすぎの新市誕生はどれも微妙>

英エリザベス女王の在位70年「プラチナ・ジュビリー」の盛り上がりの中で、僕はこのビッグニュースをほとんど忘れそうになっていた。僕の住む町が、市になったのだ。コルチェスター市だ。

ここがただの町にとどまっているのは、長年気にかかっていた。正確に言えば、10年間気にかかっていた。10年前の2012年、女王の在位60年「ダイヤモンド・ジュビリー」に際し、3つの新たな市が誕生した。もしも最も主張の声が大きい3つが選ばれていたとしたら、僕たちのエセックス州コルチェスターがあのとき市になっていただろう。でもたまたま、他に強敵の候補――チェルムスフォード――が同じ州内にあった。だから半ば政治的な理由で、上層部は新たな市をエセックス州から2つ、それ以外の州から1つ、というふうにするのは避けたかった。

もしエセックス州から2つの市ができていたら、他の地域の人々も不愉快になっただろう。フェアじゃない......保守党員が大勢住んでいて、そろいもそろって金持ちばかりの南東部に2つも新市が誕生するなんて既定路線じゃないか、と。

チェルムスフォードとコルチェスターは、他の地域の人々から見ればどちらも区別がつかないような場所で、僕が東京に住んでいたときに高崎市と前橋市を区別できなかったような感じだ。僕がそんなことを言ったら群馬県の人がイラッとするのと同じくらい、僕だって、誰かが「歴史的で文化の香り高い」コルチェスターと「無作法で味気なくてなんら特徴のないベッドタウン」チェルムスフォードを混同したらイラつくだろう。

だから、2012年には「2つに1つ」でチェルムスフォードが勝った。たぶん、大聖堂があるからだろう。他の2つの市はウェールズのセント・アサフとスコットランドのパースが選ばれた。全てはバランスの問題なのだ。

存在感が薄すぎる面々

でも僕たちには、十分すぎる資格がある。以前に僕は紹介したことがあっただろうか。コルチェスターは2000年以上の歴史を持つ町だということを。ローマの侵略者たちが、この町をイギリスの首都だと思い込んだということを(実際にはいくつかある地方首都の1つにすぎなかったが、間違いなく主要な部類に入った)。コルチェスターにローマの寺院があったことを。ノルマン様式の城が今もあることを。イングランド内戦ではここが大規模な戦闘の地になったことを。そしてここには、見事なビクトリア朝の家々や建築物があり、大学があり、英軍基地があり、人口が急増しており、新たな美術館が誕生しており......。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story