ブレグジット後の「揺れ戻し」を促す、英メイ首相のしなやかな政治手腕
EU離脱の国民投票後に調査会社Yougovが行った調査では、18~24歳層の離脱支持者の比率は29%、24~49歳層が46%に対して、65歳以上層は64%、50~64歳層で60%。教育水準別には、大卒相当(学位取得者)層で残留支持者の比率が7割を占める一方、中卒相当以下では7割が離脱支持。支持政党別の離脱支持率は英国独立党支持層で95%、保守党支持層で61%、労働党支持層で35%、自由民主党支持層で32%、となっています。
低収入層や社会保障が削られることに敏感な層はもちろんですが、何より内向きで保守的な見解を持つことについて「見下され」「馬鹿にされ」た人々による、これ以上黙視できないとの意思表示が国民投票とされてきました。食うに困る状況となれば人々の心も荒み、あるいは将来への不安から追い詰められた結果、他者への配慮が欠如するほど心の余裕がなくなるのはある意味当然でしょう。人間は弱いものです。であるからこそ、なおさらに、政治は他者への尊厳を掲げるべきでしょうし、その上でこそ成り立つ「安心」を人々に訴え、その実現のための経済政策などの実施に向けて動くべきでしょう。
これみよがしのポリティカル・コレクトネスを振りかざさずとも、人々の主張に理解と敬意を示すことでその溜飲を下げつつ、政治に求められる崇高な理念もまた彼らに提示することができる。人々の傷ついたプライドと懐の修復につとめ、かつEUとの国際協調路線に象徴されるような本来的なグローバリズムの前提は崩さない――ごくごく一部を垣間見たに過ぎませんし、それが全てなどと言うつもりも全くありません。言わずもがなではありますが、ブレグジットの落としどころはまだまだ不透明で非常に危ういものがあります。メイ政権への横槍や抵抗も出て来るでしょう。それでも、EU離脱の選択から急速にその揺り戻しが起こっているイギリスで、少なくとも反グローバリズムを隠れ蓑にして差別主義を助長させてもたらされる国民間の価値観の分断ではなく、現実的な統合を目指すメイ首相の政権運営を通じて、「post-truth (客観的事実や真実が重視されない)」の先の政治や政治家のあるべきスタンスのようなものが少しだけ見えたような気がいたしました。
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