コラム

誰が「ドル売り介入」最大のチャンスを阻むのか

2015年06月22日(月)11時40分

 為替差益を実現益として確定し、国庫に納めるのは有用ですし、財政危機と仰る方には財源確保の朗報ではないでしょうか。消費税引き下げの財源に充当すれば国内消費が一気に活性化し内需が拡大、それこそアベノミクスの成果と高く評価されること請け合い。

 ところで、米ドルを売ると言えば米国が難色を示すはず、日本は米国の属国なので米ドル売りをしようものなら米国からの圧力がかかるので売れないといった声は一般の方に随分と根強いようです。米国のプレッシャーによって米ドルが「絶対に」売れないということはありません。米ドルは売れます。

 と言うのも、91年~92年、97年~98年には米ドル売りの実績があることは我が国の財務省公表のデータを見れば一目瞭然です。為替介入というのは政府・財務省が主導し、日銀が実働部隊となって実施するものですが、90年代までは日本は安い時に米ドルを買い、高くなったら売るという作業をしてきた経緯があります。

 ワタクシ自身が現役の頃ですが、先輩トレーダーから「日銀と同じようにドルを売ったり買ったりしてればまず間違いない」と言われたものです。

 かつては実施していた米ドル売りがなぜ今できないのか。無論、各国との協調という側面もあり米ドル売りが受け入れられないステージもあるでしょう。しかし、海外の反応を見ても、国内の円安のデメリットを訴える声が強まっている実情を鑑みても、今なら米ドル売り介入について国内外の理解は求めやすい状況です。ちなみに、90年代後半に米ドル売りを指揮したご本人である元財務官の榊原英資氏にインタビューした際には、氏曰く「アメリカからの抗議はなかったと記憶していますよ(笑)」(集英社の「青春と読書」2012年5月号に文字として残っています)。詰まるところ、日本の当局に米ドル売りする気があるのか、現状であれば米国よりもむしろ日本自身の問題でしょう。

 これは為替介入だけの問題ではないのですが、「悪いのは米国(海外)」とするのは不満のはけ口が外向きになり国内世論をコントロールしやすくなるという側面はあります。誰が一般国民の利益を阻害しているのか、どのような政策がより多くの国民にとって有益となるのか。長期的視点、大所高所から俯瞰するのは基本中の基本。その上で個別の事象を踏まえ、海外との良好な関係を保ちつつ自国の国益を最大にするような、バランスのとれた政策を臨機応変に実施することが重要で、そのための分析、検証はしっかりすべきだと考えます。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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