コラム

外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

2024年05月04日(土)16時40分
カンボジア出身の労働者ソッケンさんが住んでいたビニールハウス

カンボジア出身の労働者ソッケンさんが住んでいたビニールハウス SBS 뉴스 / YouTube

<玄界灘を挟んで並ぶ日本と韓国は、排他的なところでも似ているのか......>

日韓を行き来しながら暮らしていると、今どこにいるのかわからなくなることがある。街のカフェで仕事をしながら、ふと、ここはどこ? ソウル? 東京? 加齢のせいだろうか。以前、先輩がもらした言葉を思い出す。

「年をとると季節がどっちに向かっているかわからなくなる。これから夏に向かうのか冬に向かうのか」

春と秋はとても違うのに、一瞬わからなくなる。体感が似ているからだろうか。ソウルと東京も同じだ。似ているところが多すぎる。

2021年3月、一人のスリランカ人女性が名古屋の入管施設で亡くなった。ウィシュマさんは死亡当時33歳、施設内でのひどい虐待は日本社会を驚愕させた。

「今の時代に、こんなにひどいことが起きているとは......」

信じられないようなことは、その3カ月前に韓国でも起きていた。2020年12月20日、京畿道抱川市(キョンギドポチョンシ)の農業用ビニールハウスの中で、外国人女性が亡くなった状態で発見された。

「なぜ21世紀に労働者が宿舎で凍死するなどという事態が起こるのか」

韓国メディアは怒りと悔しさを伝えていた。亡くなったソッケンさんは30歳、翌月には家族が待つカンボジアに帰国予定だった。彼女もウィシュマさんと同じく、当初は「病死」と発表された。

氷点下18度のビニールハウス

その日の気温は氷点下18度まで下がっていたという。ソウルを含む朝鮮半島内陸部の冬の寒さは厳しく、暖房なしでは危険な状態となる。ところがビニーハウスの暖房は数日前から故障していた。一緒に暮らしていた女性たちは一人二人と友人宅などに避難。「私も今日はどこか別のところで」と他所に身を寄せたルームメイトが、翌日になって帰宅してすでに冷たくなっていたソッケンさんを発見した。

支援者グループなどの追求に対して、警察は当人の持病の悪化が原因だと発表した。事業主に対しては「健康診断の未実施による過料」(日本円で約3万円ほど)の支払いが命じられだけだった。

カンボジアの遺族は突然知らされたソッケンさんの死に衝撃を受けながらも、なすすべがなかった。支援者グループと弁護士が連絡をとり、家族からの委任で労災申請をしたのは1年後の2021年12月、「長時間労働と劣悪な環境が病気を悪化させた」ことが認定されたのは、2022年4月だった。同じ頃、日本でもウィシュマさんの家族が入管当局を刑事告訴していた。

同時期に日韓両国で起きた2つの事件には共通点も多かった。

「欧米から来た白人に対してだったら、こんないい加減な捜査はしないと思う」

ソッケンさんの支援者グループのメンバーはそう言っていたが、日本も同じかもしれない。残虐なことをする邪悪な人間はどこの社会にもいるが、そこに差別意識があったのではないか。被害者の国籍によって、扱いに差が出るのではないか。たとえ無意識にしろ、そういうものがあるなら、支援グループやメディアが声を出し続けるしかない。

プロフィール

伊東順子

ライター・翻訳業。愛知県出まれ。1990年に渡韓、ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。新型コロナパンデミック後の現在は、東京を拠点に日韓を往来している。「韓国 現地からの報告」(ちくま新書)、「韓国カルチャー 隣人の素顔と現在」(集英社新書)、訳書に「搾取都市ソウル‐韓国最底辺住宅街の人びと」(筑摩書房)など。最新刊は「続・韓国カルチャー 描かれた『歴史』と社会の変化」(集英社新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比+5.4% 消費・生

ワールド

米テキサス州のはしか感染さらに増加、CDCが支援部

ワールド

米韓財務相、来週に貿易協議実施へ 米が提案

ワールド

WHO加盟国、パンデミック条約で合意 交渉3年余り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story