コラム

コロナアプリ「COCOA」の失敗から日本社会が学ぶべきこと

2023年08月08日(火)13時55分
cocoa、 コロナ、アプリ、ココア

COCOAの教訓が生かされる日は来るか NAOKI MORITA/AFLO

<忘れられたニュースを問う石戸諭氏のコラム。コロナ対策アプリ「COCOA」を単に失敗で終わらせずに、「次のパンデミック」に生かすことが早急に求められているが...>

安倍晋三首相(当時)が力を入れ、新型コロナの感染対策の柱に位置付けられていた「COCOA」というスマホアプリがかつて存在した。感染した人と濃厚接触をした可能性がある場合に通知が送られてくるという、感染症対策としては最先端のシステムだったが、2020年6月の導入から約2年で大きな効果がないまま運用を終了した。

私の取材先も開発に関わっていて、熱気は伝わってきた。それは、IT系の技術者もコロナ対策に協力できる喜び、また技術によって感染制御に貢献できる意気込み、とも言い換えられる。

熱気に感化されていたのは技術者ばかりではない。感染症対策の専門家集団に関わっていた人々も、当時私の取材にはっきりとCOCOAへの期待を口にしていた。いわく「アナログな呼びかけだけでなく、テックの力を借りて感染対策ができるようになる」と。

多重下請けより問題だったこと

基礎的なデータを確認しておこう。COCOAの運用主体は厚生労働省で、契約額はざっと13億円、4000万件以上のダウンロードがあった。運用開始直後には、感染したことを登録できないというバグが見つかり、感染者と接触していない利用者にも「接触の可能性がある」と通知されたり、逆に感染者との接触があったにもかかわらず通知が届かなかったりという不具合まで起きた。極めつきは、致命的なエラーが見つかっても4カ月間にわたって放置されていたという報道が出たことだ。

念のため付け加えておくと、IT系の開発にとって最初からサービスを完璧に作り、リリースするという発想は基本的にはない。いくら完璧を目指しても、使っているうちに見つかるバグはあり、それらは時間をかけて改善を続ければいいからだ。

不具合があったことは責めても仕方がない。だが、さすがに4カ月の放置はあり得ないというのが業界の受け止め方だった。厚労省からの発注の過程で多重下請けによって責任が分散したことの問題が指摘されたが、それよりも明確な開発ビジョンと柔軟な開発体制がなく、リリースしたアプリの品質管理に対応するシステムが脆弱だった国・行政全体の問題として捉えたほうがいいだろう。同省の検証報告などを踏まえれば、首相が「やれ」と掛け声を上げても、現場レベルではうまく回っていなかったことが想像される。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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