コラム

アフガン難民はどこへ? 受け入れめぐるEU加盟国の不満といさかい

2021年08月25日(水)19時55分

また、いつものことながら、難民認定率にも、加盟国で大きな差がある。

2020年、アフガニスタンからの亡命者のうち、第一審で難民の地位が認められたのは、ブルガリアでは1%だったのに対し、イタリアでは93%だった。

ちなみに、日本が2020年に受けた難民認定申請者数は、全部で3936人、難民認定されたのは47人だった。

じゃあ、どうする?

今まで2014年から2020年の間に、EUはアフガニスタン、イラン、パキスタンに2億5500万ユーロを投じて、アフガニスタン避難民が現地に統合できるように、支援してきた。

イランはすでに350万人以上、パキスタンは140万人以上のアフガニスタン人を受け入れている。

これに対し、2015年以降にEUに亡命を求めた人は57万人だ。

imai20210825141503.jpg

アフガニスタンは海のない内陸国である。陸路だと日本と西欧、どちらが近いだろう。海に出ればどうだろうか GoogleMap

イランやパキスタンにさらに資金援助をして、難民を受け入れてもらうようにしたいと考えている加盟国もあるという。

しかし、これらの国がすでに過重な負担を強いられていて、難しいだろうという意見がある。

EUにとっては、地中海からの移民も、続いている。移民問題は、EUのアキレス腱であり、各国で極右が台頭する最大の要因となってしまう。

さらにコロナ禍で経済が弱ってしまったので、これ以上負担は増やせないということなのだろう。

それに、実感でいうと、欧州大陸においてアフガニスタン移民は、他の人たちと異なる感じがする。それが、各国で受け入れを躊躇する原因の一つになっているのではないか。

欧州大陸の移民は、ほとんどがアフリカ大陸や、中近東からである(イギリスは違う)。フランスの例を挙げるなら、アフリカ大陸から来る人々が圧倒的に多く、彼らのことは、数世紀にわたってよく知っている。対応や受け入れ方法、フランスへの統合の仕方についても既に様々な蓄積がある。

しかしアフガニスタンの移民は、欧州大陸にとって大変新しい人たちだ。アフガニスタンや中央アジアという土地も、馴染みがない。内戦が何十年も続いてきた社会で、宗教(イスラム教)の力は大変大きい。人々の考えは極めて封建的で保守的、男尊女卑も極めて強い。統合には、大きな困難が伴うだろう。

それでもEUでは、数を制限しながらも、アフガニスタンからの亡命希望者を受け入れてきた。彼らの統合にも、努力を傾けている。

もっとも、欧州で一番受け入れが問題になるのは、イギリスだろう。大英帝国の時代からこの地域に介入し、支配もした。約40年前、アフガニスタンにソ連軍が介入した時は、アメリカと共に戦争に参加した(ソ連軍撤退以降はいったん手をひいた)。もうEU加盟国ではないが。

欧州大陸の国々がNATO(北大西洋条約機構)の枠組み(あるいは有志連合)でアフガン紛争に参加したのは、ほとんど2001年のアメリカ同時多発テロ事件(9.11)以降の話である。

徒歩で来るには、アフガニスタンから欧州は遠いが、それでもなんとか方法をみつけてやってくるだろう。──もちろん、日本にも。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story