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見直しが始まった誤・偽情報対策 ほとんどの対策は逆効果だった?
また、中露イランが行ったことに影響工作についての調査研究のほとんどは事例研究であり、社会全体への影響などについて整理、分析されているわけではない。
同様にファクトチェックやリテラシー教育などの対策についても効果は検証されていない。そもそもこの領域の調査研究はきわめて偏っていることもわかっている。過去の調査研究の内容の統計を取ると、圧倒的に多いのはファクトチェックに関するもので、次はリテラシーである。カーネギー国際平和財団が行ったこの調査の結果では、ファクトチェックに関する調査研究の多くは偽情報対策に特別効果があるわけではないという内容が多く、効果がある対策だからたくさん研究されているわけではないのだ。無駄遣いと思うのは私だけではないだろう。
また、調査方法や対象に偏りがあるうえ、行動に影響を与えることを検証したものがほとんどないこともわかっている。多くの調査研究は情報を受け入れることと、信じることまでを調査しており、行動するまでは調査していない。情報を受け入れることや信じることと、行動することの間には大きな隔たりがある。アイルランドの研究者のグループが2016年から2022年の間の公開されたこの領域の論文などを調査して判明した。
中露イランが行ったデジタル影響工作に効果があるように錯覚しやすいのは、現在の世界は民主主義にとって逆風であり、対策を講じなければ衰退してゆくからである。民主主義陣営は効果的な対策を講じていないので、長らく民主主義は衰退を続けている。気候変動、資源・エネルギー不足、格差の拡大、移民の増加がその背景にあり、こうした変化に直面した社会は不安定になり、極右など過激なグループが活発になりやすい。
これらは各国が協力して対処すべき問題だが、言い方を変えると外交と政治の問題、つまりは政治家や政党が責任を問われる問題となる。真っ正面から取り組むよりは、中露イランの影響工作のせいにした方が都合がいいうえ、わかりやすい悪役を設定できるので国民の理解も得やすい。
対策も同様で、ファクトチェックやデジタル影響工作のテイクダウンなどのようなわかりやすい対応を中心に行っている。しかし、問題の本質はそこにないので、そんなことをしている間に民主主義はどんどん衰退し、国内はより不安定になり、極右や白人至上主義者といった過激派が台頭する。その結果、アメリカでもヨーロッパでも社会は不安定になる一方だ。
さらに過度に外国からの干渉の脅威を政治家が口にし、メディアが報道しているため、国民の間に情報に対する不信感が広がっている。
こうなることはわかっていた
見直しの動きがでる前から、こうしたリスクについては何度も警告が発信されていた。2016年のアメリカ大統領選について分析したレポートには「パーセプション・ハッキング」が取り上げられている。パーセプション・ハッキングとは、デジタル影響工作の成否にかかわらず、干渉が公になることで不信感や懐疑的な風潮が広がってしまうことを指す。
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