コラム

もうひとつのウクライナ危機 ロシアのデジタル影響工作

2022年02月14日(月)17時00分

ネット上ではすでに戦闘が始まっている...... REUTERS/Evgenia Novozhenina

<緊迫するウクライナ情勢。ネットでの影響工作はロシアの軍事行動に欠かせない重要な兵器となっている......>

EUが確認した13,500件以上の誤情報の40%がウクライナ関連

緊迫した状況が続いているウクライナの軍事的脅威が報道されているが、その裏側でネット世論操作も行われている。ウクライナは以前からネット世論操作の主要なターゲットになっていた。EUのEast StratCom Task Forceが運営しているEUvsDisinfoのファクトチェック・データベース(2015年から開始)に登録された13,500件以上のうち5,200件以上、40%程度がウクライナに関連していたことからもわかる。

ロシアにとって、ネットでの影響工作は軍事行動に欠かせない重要な兵器となっており、他の活動と連動させることによって、より効果的にできる。軍事行動の前になんらかの影響工作が行われることも多く、今回は軍の2回の大幅な増派のそれぞれ2週間前にツイッター上でのプロパガンダが活発になったことが観測されている(Mythos Labs)。

こうしたロシアのプロパガンダ活動の一部は報道されており、ロシアがプロパガンダ用映像を制作している(CNN)という記事を見た方もいるだろう。ロシアの指示で誤情報を広めた4人のウクライナ議員がアメリカの制裁対象になる事件もニュースで取り上げられたし、ウクライナに関する誤情報に注意を促す記事も出ている(JBpress)。

発信している内容の傾向

当初は「ウクライナが周辺国に脅威を与え、ロシアを攻撃しようとしている」、「ウクライナのNATO加盟は誤り」といったウクライナを責めるものが多かったが、現在は西側、特にアメリカやNATOを責める内容の割合が増えている。また、発信する言語はロシア語が多かったが、英語が増えており、英語圏を主たるターゲットにしていると考えられる。

その内容は、「アメリカは自国およびNATOの影響力を維持、拡大するためにロシアを悪役にしようとしている」などといったものだ。親ロシアでなくとも、反NATOを唱える人はおり、そうした人々の発言を拡散することでより多くに影響を与えようとしている。

ロシアは以前から、「西側はウクライナを口実にロシアを攻撃してしようとしている」、「西側はロシアを攻撃するための偽旗作戦を行うつもりだ」、「NATOはロシアを悪役にして影響力を拡大しようとしている」といった話をさまざまな形で脚色して使っており、今回も同様の傾向だ。個別の詳細については拙ブログで紹介した。

SNS ツイッター、フェイスブック、Telegram、YouTubeなどでの活動

・ツイッター

親ロシアの偽情報/プロパガンダを拡散するアカウントがウクライナについてツイートした回数は、2021年1月から11月までは1日16回だったのに対し、11月になると平均1日213回、3,334%増加した。12月と1月初旬にはさらに375%増加した。他のトピックでロシア寄りの偽情報やプロパガンダをツイートしていたアカウントが、ウクライナに関するツイートを主に行うようになり、ウクライナが重要課題となったことがわかる。

昨年は、ロシア国営メディア@rianru、報道機関を装ったアカウント@DonbassSegodnya、偽情報を発信する人気のあるアカウント@anatoliisharii、@hnv_NaTa、@AntonGolovnev91、@RadioStydobaなどのツイートを拡散していた。ありていにいうと、あまり信頼のおけない発信源も多かった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story