コラム

もうひとつのウクライナ危機 ロシアのデジタル影響工作

2022年02月14日(月)17時00分

しかし、昨年終わりから今年頭にかけて親ロシアの公式あるいは評価や信頼を得ているアカウントのツイートを拡散するように変化した。たとえば、スノーデン事件で知られるジャーナリスト、Glenn Greenwald(@ggreenwald)のツイートの中からロシアにとって都合のよいツイートを拡散している。他には、オーストラリアのジャーナリストJohn Pilger(@johnpilger)、アメリカ下院議員Matt Gaetz(@mattgaetz)、極右ジャーナリストJack Posobiec(@JackPosobiec)などのツイートを拡散している(Mythos Labs)。

ツイッターのボットも活動しているが、プロフィールが矛盾していたり、AI(GAN)で画像を作ったとすぐにわかるなど、いささか雑な作りとなっている。しかし、それでも充分な効果があると考えているのかもしれない(MIBURO)。

・YouTube

後述するロシア系メディアや親ロシア派にYouTubeは活発に利用されており、YouTube側がチャンネルを凍結するケースも発生している。たとえば「DNR Ministry of Information」、「DNR National Police」、「LNR National TV-Radio company」、「Lugansk Information Center」チャンルと、People's Policeのアカウントを凍結した。また、親ロシア派のウクライナ国会議員Viktor Medvedchukとその支持者に関連するチャンネル「UkrLive」と「First Independent」も凍結している。

・Telegram

親ロシア派チャンネル「Cartel」は、キエフ市長がドネツクとルハンスクを解放するために軍事作戦を準備していると投稿した。また、市長は、兵器を調達するためにアメリカ国務長官アントニー・ブリンケンと取引をしているとも主張した。

42万9,000人以上のフォロワーを持つ親ロシア派のチャンネル「First」は、このような「Cartel」の投稿を拡散している。

「Skeptic」チャンネルは、アメリカはウクライナを放棄するだろうとし、その根拠としてアメリカ国務省とロシアの間で交わされたとされる機密文書を閲覧した匿名の情報源をあげている。この投稿は、「First」「Rezident」などチャンネルで拡散された。

・フェイスブック

フェイスブック上でもさまざまな形で投稿あるいは広告出稿が行われている。たとえば次のようなものがある。

2021年12月1日に、ウクライナの国境警備隊が不法移民を殺害している動画がフェイスブックにアップされ、その後ロシア系メディアやTelegramのチャンネル、YouTubeにコピーが拡散した。

ウクライナの親ロシア派国会議員Viktor Medvedchukの仲間のRenat Kuzminは、人々が家族を海外か西ウクライナに移していると主張し、RIAやRTなどのロシア系メディアによって拡散された。

同様に、Renat Kuzminと同じ政党に所属するIllia Kyvaは、アメリカ人がウクライナの権力を掌握し、大量虐殺を演出したと自分のTelegramチャンネルに投稿し、親ロシア派によって拡散された。

グルジアの親ロシアのページ「Politicano」は、ウクライナとNATOを標的とした複数の投稿を拡散し、広告も出稿していた。

親ロシア政党Conservative Movement のメディアAlt-Infoは、フェイスブックでビデオ番組でNATOやEUを非難した。

在米ロシア大使館も、フェイスブックにウクライナに輸送された武器が最終的にテロリストや過激派の手に渡ることをアメリカは知っていると投稿するなど誤情報を拡散している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story