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ファクトチェックの老舗Snopesの剽窃事件の裏にある問題
ファクトチェック機関の収入源は限られており、フェイスブックやグーグルはそこに甘い餌を撒いているmillionsjoker-iStock
<ファクトチェック老舗Snopesが他社の記事を剽窃していたことを報じた。もっとも信頼できるメディアとみなされてきたので、このニュースはファクトチェック関係者に衝撃を与えた...... >
2021年8月13日にBuzzFeedNewsがファクトチェック老舗Snopesが他社の記事を剽窃していたことを報じた。New York Timesもこの事件を取り上げ、剽窃が60件だったことを伝えた。剽窃を主導していたのは創業者でCEOのDavid Mikkelsonだった。Snopesはファクトチェックの草分けであり、もっとも信頼できるメディアとみなされてきたので、このニュースはファクトチェック関係者に衝撃を与えた。問題となった記事はファクトチェックではなく、同サイトに掲載されていた一般のニュースで目的は広告収入を上げるためのアクセス稼ぎだった。
現在、ファクトチェックを担っているのものの多くは民間の私企業あるいはNPO団体だ。大手メディア企業の1部門なら別だが、自前で活動資金を確保する必要がある。Snopesの収入は同社サイトによると広告収入、読者収入、クラウドファンディングからの収入、寄付などが中心だ。同社はフェイスブックのファクトチェックを行うファクトチェック・パートナーになっていた期間があり、2018年にフェイスブックから得た報酬は$406,000(約4千万円)で、これは開示されている収入全体の33.14%と高い割合を占めている。
ちなみに同じくフェイスブックのファクトチェック・パートナーのFactCheck.orgは、2018年に18万8,881ドル(約1,800万円)、2019年は24万2,400ドル(約2,424万円)をフェイスブックから受け取っていた。
グーグルやフェイスブック、非営利財団などが後押しするファクトチェック活動は広がっており、2018年の段階では47のファクトチェック組織のうち41がメディア企業に関係していたが、2019年は60のうち39がメディア企業に関係しているに留まった。ファクトチェック機関の数は増えているが、伝統的なジャーナリズムとの結びつきは弱まっているのだ。言い方を変えるとグーグルやフェイスブックのファクトチェック団体に対する影響力は増大していると言える。
ファクトチェックというと中立で公正な「正義の味方」のイメージがあるが、必ずしもそうとは限らない。日本では大阪維新の会が始めたファクトチェックが開始後即座に炎上した(朝日新聞)。そもそも政党がファクトチェックを行うことが、非党派性・公正性の原則からはずれるという指摘もされた。ファクトチェック機関に特定の思想や主張あるいは第三者が影響を及ぼすことは望ましくない。しかしファクトチェック機関の収入などの裏側の事情はあまり知られていない。
ファクトチェックの裏側の事情について触れたColombia journalism Reviewの記事では、「政府やテクノロジープラットフォームが、誤情報に焦点を当てるように後押ししていることは否定できない。社会的使命と手法の両方について多くの疑問がある」という言葉が紹介されている。テクノロジープラットフォームとは、グーグルやフェイスブックなどのことだ。彼らがファクトチェックに人々の関心が集まるようにし、その対策に資金を提供している。彼らにとってもっとも重要なのは現在の圧倒的優位な立場を脅かす独占禁止法や個人情報の取り扱い、広告手法に関する規制である。データとアルゴリズムが依って立つこれらの基盤こそがビジネスの源であり、デマや陰謀論、フェイクニュース、コンテンツモデレーションへの注力はそこからできるだけ世間の関心をそらす方便なのかもしれない。
資本主義社会においては、資金が潤沢なところに人が集まる。その結果、政府や企業が資金援助する科学や文化の分野は発展し、そうでない分野は衰退する。結果として政府や企業の目的に沿った活動を行う科学者や文化人しか残らない。同様に資金が潤沢=グーグルやフェイスブックなどの元にファクトチェック団体が集まってしまう可能性がある。
Snopesの収入を見てもフェイスブックからの報酬はかなり役に立っていたのは確かだ。Snopesは2019年にフェイスブックのファクトチェック・パートナーを辞め、今回のスキャンダルが露見した。ファクトチェック機関に取って資金確保は重要な課題だ。
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