コラム

日本のツイッター政治空間はリツイートが80% 政党に関するツイートを分析した

2021年02月17日(水)18時00分

そしてツイート全体のワードクラウドとリツイート数の多い(リツイート全体の50%を占めるツイートの)ワードクラウドは類似しており、たった1.7%のツイート(アカウント数では3.82%)が増幅されて全体に影響を及ぼしている様子がよくわかる。くわしくは後述するが、ワードクラウドに登場しているほとんどの言葉はネガティブな意味で使われている。たとえば「偉い」は「お偉い自民党」といった使われ方をしている。

ichida0217_4.jpg

ネガティブなものほどリツイートされやすいことは過去の研究結果とも一致する。以前の記事「ネット世論操作は怒りと混乱と分断で政権基盤を作る」に書いたような事態が危惧される。

ツイッター社APIを利用したデータ解析

くわしい説明に入る前に調査方法をご紹介しておきたい。ツイッター社は自社のシステムへの接続(API)を公開しており、無償あるいは有償でツイッターのデータにアクセスすることができる。この仕組みそのものは以前からあったものだが、一般利用者にとって必ずしも利便性の高いものではなかった。

その後、統計システムRのライブラリに簡単に利用出来るパッケージrtweetがリリースされて利用しやすくなった。そして今年の1月26日には学術機関や大学関係者(修士などを含む)がツイッター社の認定を受ければ無償で全てのツイートデータにアクセスできるサービスが発表された。これで一挙にツイッターの統計解析が身近になった。

今回は全てのデータではなく、無償で利用可能な範囲でツイッターのデータをRを用いて解析した結果である。無償で利用できるデータには上限があるため、調査対象期間を2月5日に限定し、さらに2時、8時、14時、20時から30分間のツイートを集めた。2月5日まるごとを対象にしたかったが、1時間でもデータ制限の上限にかかってしまったため、このように時間を制限し、数回に分割することになった。2時間の(30分×4回)総データ数は12,085件である。

今回対象とした期間が特にリツイートの多い日だった可能性もあるので、2月8日、9日、10日のリツイート率も確認したところ、いずれも80%を超えていた。2月前半が特に高い期間であった可能性もあるが、残念ながら後述するツイッターAPIの制限により、他の期間の確認はできなかった。

データ収集、集計を行った手順はRのコードを含む技術的で細かい話になるので拙ブログに書いた。関心のある方はご一読いただければ幸いである。

さまざまな制限のため、検証用のデータというよりは仮説構築のためのデータ解析と考えていただきたい。本稿に書いたことは原則として仮説であり、より広範な調査によって検証あるいは深化すべきものと考えている。

自民党に関するツイートが最多、次いで立憲民主党、日本維新の会

政党ごとにみると、もっとも多くツイートされていたのは自民党で次いで立憲民主党、日本維新の会、共産党、公明党となっている。リツイートの50%を占めるツイートを視認したところ、数件をのぞき、言及している政党への批判ばかりであった(くわしくは後述のワードクラウドを参照)。複数の政党を取り上げていることは少なく、全体の88.41%のアカウントは特定の政党についてのみツイートしていた。公明党だけは複数の政党に触れているツイートの比率が50%を超えていたが、これは公明党について語る時に複数の政党との比較を行うツイートが多いというよりは、公明党だけを取り上げたツイートが少ないためと推定される。失礼ながらツイッターでは存在感が薄いのかもしれない。

ichida0217_5.jpg

リツイートがきわめて多いことからわかるように、調査対象期間中にリツイートしかしていないアカウントも多数存在していた。政党別にグラフ化したものが下図である。複数政党に言及しているアカウントもあるので合計すると100%を超える。

ichida0217_6.jpg

自民党がもっとも低く、公明党がもっとも高くなっており、野党は総じて高い。ツイートの内容のほとんどが批判であることを考えると、自民党はリツイートしかしていないアカウントにはもっとも攻撃されていなかった政党ということになる。逆に公明党や共産党はもっとも攻撃を受けたことになるが、公明党は前述したように他の政党と並んで取り上げられることが多いので、全てが公明党を狙い撃ちしたわけとは言えない(中には公明党だけを批判し、そこそこ拡散していたツイートもあることはあった)。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story