コラム

ロシア、アゼルバイジャン、アルメニアが入り乱れるネット世論操作激戦地帯

2020年10月28日(水)18時30分

ロシア、アゼルバイジャン、アルメニアが入り乱れるネット世論操作激戦地帯となっている......  REUTERS/Umit Bektas

<アゼルバイジャンとアルメニアが紛争状態に陥っているが、戦闘の状況はさまざまなメディアで報道されているが、その裏でネット世論操作も繰り広げられている...... >

ナゴルノカラバフ地域を巡ってアゼルバイジャンとアルメニアが紛争状態に陥っている。戦闘の状況はさまざまなメディアで報道されているが、その裏でネット世論操作も繰り広げられている。もはや政治と戦争はネット世論操作なしには語れなくなっているようだ。

アルメニアを圧倒するアゼルバイジャンのネット世論操作

本誌米国版は2020年10月9日の記事で、アゼルバイジャンとアルメニア双方でネット世論操作合戦が続いていることをレポートした。反アルメニア、反アゼルバイジャンのタグを使用するアカウントはボット(プログラムによって自動的に投稿、リツイートなどを行うアカウント)もしくはトロール(手動で拡散を行うアカウント)である可能性が高く、「#stoparmenianaggression」を使うアカウントは紛争が勃発してから作られたものが多いと指摘している。

Facebookは、アゼルバイジャンから一連の不正行為を行った、Facebookのアカウント589、7,906ページ、447のInstagramアカウントを削除したと発表した。アゼルバイジャンの政権党の青年組織Youth Unionが関与していると考えられている(2020年10月8日)。また、ナゴルノカラバフ地域周辺でのネットサービスの中断や、標的を絞った検閲行為も確認されている。

またアゼルバイジャンは、アルメニア関係者のフェイスブックページを乗っ取り、改竄し、その結果、規約違反でページはフェイスブックから削除されてしまった。またアルメニア政府のウェブのサイトを改竄し、戦闘状況などの誤情報を掲載し、混乱を引き起こそうとした。アルメニアはすぐにウェブのサイトを復旧するとともに、アゼルバイジャンへのサイバー攻撃を行った。アゼルバイジャンはアルメニア政府サイトへのDDoS攻撃も並行して行っていた。

アゼルバイジャンとアルメニアの応酬の一部は、ポッドキャスト「Armenian-Azerbaijani Hybrid Warfare」(2020年7月15日)で聴くことができる。

両国はastroturf(草の根に見せかけたネット上の活動)も行い、互いを攻撃し合っており、サイバー軍、ハクティビスト、トロールなどサイバー空間では総力戦とも言える状況になっている(DFRLab、2020年7月21日)。DFRLab(デジタル・フォレンジック・リサーチ・ラボ)の調査によると、アゼルバイジャンのアカウント数および活動はアルメニアを圧倒している。たとえば2020年7月12日から7月18日の間に観測された親アゼルバイジャンのツイートへのメンションは100万を超えていたが、親アルメニアのメンションはおよそ3万だった。

アゼルバイジャンのネット世論操作には「IRELI Youth」(別称:Youth Union)の関与が疑われており、アゼルバイジャン政府がその背後にいると考えられる。また特定のハッシュタグを使ったもっともアクティブな500のアカウントのうち438は活動直前に作成されていた。残り17はアカウントが停止されていて確認できなかったため、確認できる全てのアカウントが活動直前に作られていたことになる。

コロナに関連したネット世論操作作戦を展開

紛争が勃発する前の2020年3月にアゼルバイジャンはコロナに関連したネット世論操作作戦を展開していた(DFRLab、2020年4月2日)。3月30日と31日に、いくつかのアルメニアのフェイスブックグループでアゼルバイジャンとの国境のアルメニア軍の中でコロナが蔓延しているという誤情報を掲載した。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story