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ネット世論操作は怒りと混乱と分断で政権基盤を作る
ネットでは怒りや嫌悪がより拡散する
ツイッター社の協力を得て、MITメディアラボが過去の全てのツイートを対象(アカウントが停止、削除されたツイート、削除されたツイートなどを含む全量)に分析したレポート「The spread of true and false news online」(2018年3月9日)によると、拡散しやすいのは驚きと嫌悪の感情だった。50万件のツイートを分析したニューヨーク大学の研究でも、感情的な内容はバイラルで拡散が20%高く、特に同じグループ(保守あるいはリベラル)の中で拡散しやすいことがわかった。Pew Research Centerの調査(2017年2月17日)でも批判的な投稿はそうでないものより2倍のエンゲージメントがある結果となっている。
ネット世論操作でよく用いられる批判や攻撃的な投稿は、拡散しやすい負の感情(怒り、嫌悪など)を含むことが多く、これらの条件に当てはまっている。特にMITメディアラボの研究はフェイクニュースに焦点をあてているので、ネット世論操作のツールであるフェイクニュースがいかに効果的であるかよくわかる。
逆検閲によってニュースの信頼性を考えずに利用するようにさせる
大量の情報を流布させることによって、正しい情報を埋もれさせることを「逆検閲(reverse censorship)」(The Atlantic、2018年6月26日)と呼んでおり、情報の受け手を大量の情報で混乱させる効果がある。この手法は中国の五毛党も用いている(『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』角川新書)。大量の情報があふれると、その内容を理解し、真偽の判定を行うのは難しくなる。
その結果、情報の信頼性よりも利便性(アクセスの容易さ)を優先するようになる。アメリカも日本も同じ傾向であることが調査によってわかっている。『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』(日経BP、藤代裕之他)によれば日本ではまだNHKや新聞などのニュースが信頼されているものの、ニュースアプリやSNSなどの信頼度は低いが利用されている結果となっている。
特定のニュースサイトやアプリを利用する理由で「正確な情報を知ることができるから」をあげた回答者はどの利用者層でも数パーセントに留まった(2桁だったのは50歳以上で12%のみ)。これに対して、「使いやすいから」という回答は全て区分で40%以上となり、最大で62%となった。利用に当たって「信頼」という価値よりも利便性を重視する割合が高くなっているのだ。
アメリカでも同様の傾向が見られる。Pew Research Centerの調査( 2018年9月10日)では、SNSのニュースは不正確である(SNSのニュースの嫌な点の1位で31%)と回答しながらも便利だから利用する者が多かった(21%で利用する理由の最多となっている)。
これらは最近発表された世論調査会社ギャラップとナイト財団のレポート(2020年9月28日)でも確認されている。多くのアメリカ人がネットのニュースの量(72%)と更新頻度(63%)に圧倒されており、偏りがあって事実を把握するのは難しい(43%)と感じている。そして、31%はニュースを1つか2つのメディアに絞ることで対処し、17%はニュースを見るのを止めた。
アメリカ人の多くはニュースに「多くの量」(49%)または「まあまあの量」(37%)の偏見が含まれていると回答し、79%が、報道機関が偏見を植え付けようとしていると感じていた。ニュースの量の多さと偏見が大きな問題と認識されていることがわかる。
そして、認証システムや予測捜査ツールは逆検閲のための情報を大量に生むことができる。なにしろ本人よりも言動を詳細に記録しているのだ。トランプ陣営では批判した記者を10年前のSNS投稿を引っ張り出して、不適切な投稿をしていたと攻撃した。認証システムと予測捜査ツールを用いれば、それ以上のことができる。
逆検閲は、政権への支持を維持し、敵への攻撃を容易にする。国民がメディアの情報を信じないならメディアからの批判は怖くなくなる。目障りになったら、プロキシを使ってさらに逆検閲を行えばいい。「信頼」の重要性が低いなら、敵対する勢力を攻撃したり、政権を支持したりする不正確な情報を政権に協力的なメディアやプロキシから流せばよい。ロシアがアメリカに仕掛けているネット世論操作は逆検閲の効果があるため、政権に益する効果を生む。
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