コラム

コロナ禍でも威力を発揮したロシアのデジタル監視システム 輸出で影響力増大

2020年08月14日(金)17時00分

ロシアの監視システムは、監視機能が劣る部分を法制度でカバーしている...... REUTERS/Maxim Shemetov

<中国と並ぶデジタル権威主義大国ロシア、どちらの国も監視システムを持ち、ネット世論操作を行っており、軍事、経済、文化など全てを兵器として利用する戦争を世界に対して行っている...... >

香港での抗議活動参加者への中国本土からの弾圧ともとれる行動が問題になっている。日本にとって中国は地理的にも近いためよくメディアに取り上げられる。しかし中国と同じく地理的に近く、人権問題が起きているにもかかわらず、日本ではあまりメディアに大きく取り上げられない国がある。それがロシアだ。

ロシアと聞いて頭に浮かぶのは、「コロナワクチンを世界最初に承認したけど、安全性が疑問視されている」、「北方領土を返してくれない」だろう。どちらもあまりポジティブではない。Pew Research Centerの調査結果によると日本には嫌中感情なみに嫌露感情がある。それにもかかわらずロシアに対して日本政府も大手メディアもあまり強く批判しないし、取り上げることも少ない。

ロシアは中国と並ぶデジタル権威主義国家であり、その影響は旧ソ連関係国を中心に広がっている。日本のメディアがロシアを強く批判しないことにはなにか理由があるのかもしれない。

中国と並ぶデジタル権威主義国家

ロシアは中国と並ぶデジタル権威主義大国と呼ばれている。どちらの国も監視システムを持ち、ネット世論操作を行っており、「超限戦」あるいは「ハイブリッド戦」と呼ばれる軍事、経済、文化など全てを兵器として利用する戦争を世界に対して行っている。

ただしロシアと中国を比較した場合、いくつか異なる点がある。ブルッキングス研究所(2019年8月)によれば下記のような違いがある。

・ロシアの監視システム(SORM)は中国製に比べると監視性能は劣るものの安価で導入しやすい。
・監視機能が劣る部分を法制度などでカバーしている。
・多くは旧ソ連関係国を中心とした近隣国に提供されている。効果的な運用のために法制度もロシアを真似している国もある。

デジタル権威主義国家の特徴のひとつに情報操作・監視システムを他国に輸出することによって仲間を増やし、影響力を増大させることがある。中国もロシアもこうしたデジタルツールを関係国に輸出している。その数はすでに110カ国に達しており、日本の周囲も中国あるいはロシアの「デジタル権威主義ツール」に浸食されている。下の地図を見ると、その状況がよくわかる。

「ロシアと中国の情報操作ツールの浸食範囲」
Map1v02.original.jpgThe Worldwide Web of Chinese and Russian Information Controls』(2019年9月17日)より

ロシアの対外政策は大きく三つのサークルに分類できる。CIS(独立国家共同体=旧ソ連15カ国のうち12カ国の国家連合)諸国、旧ソ連に近接する国、アメリカ・西欧諸国の三つで、言うまでもなく、最後のアメリカ・西欧諸国がロシアからはもっとも関係が遠い。ユーラシア連合構想をロシアは推進しており、その核となるのがCIS諸国である。ユーラシア連合構想は経済を軸として政治や軍事でも統合を進めようとしている(『新しい地政学 』東洋経済新報社 、2020年2月28日)。デジタル権威主義ツールもCIS諸国を中心に提供している。

中国がデジタル権威主義ツール(監視システム、社会信用システムなど)を一帯一路参加国を中心に輸出、展開しているようにロシアはユーラシア連合構想に基づいてデジタル権威主義ツールを輸出しているのである。

今回はロシアのデジタル権威主義の監視システムおよび国民管理システムをご紹介したい。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story