コラム

星占いの源流は中東にある、ラッキーアイテムなどなかった

2019年01月24日(木)19時50分

サウジアラビアの占星術は命がけだから的中率が高い!!?

なお、イスラーム法(シャリーア)では一般に占星術は評判が悪い。とくにサウジアラビアでは明確にシャリーアに反するとの見解が圧倒的である。

クルアーン第27章65節に「言ってやるがよい。『天地の間、唯一人として窈冥界(ガイブ)のことを知る者はない。ただアッラーお独りだけ』と」とある。また第6章59節に「(アッラー)のお手元には目に見えぬ世界の鍵まで全部揃っている。ほかの者は誰一人(その鍵のありかを)知りはせぬ。陸上のこと海上のこと一切御存知で、木の葉がたった一枚落ちても必ずそれを知り給う。地下の暗闇にひそむ穀粒一つも、青々としたものも、朽ち枯れたものも、一切は皓々たる天書に書きつけてある」とある(クルアーンの引用は岩波文庫版より)。

このように、未来の出来事を含む目に見えない隠されたものについて語ることはアッラーだけに許されたこととの考えが、サウジアラビアのハンバリー派法学(俗にいうワッハーブ派)では支配的だ。したがって、未来を語る占星術はイスラームでは許されない、ということになる。

さらに問題なのは、占星術が魔術の一種とみなされていることだ。預言者ムハンマドの伝承には、占星術を魔術の一種とするような預言者の言葉があり、さらに魔術に関しては「あらゆる魔術師を殺すがよい」とか「魔術師に対する刑罰は剣による」さらに「死に値する七つの大罪には多神教と魔術がある」といった言葉も伝えられている。

ワッハーブ派の祖、ムハンマド・ビン・アブドゥルワッハーブもその著作で上述のクルアーンやハディースを引用し、占星術を厳しく非難している。つまり、星を読むなど怪しげなことをして未来を占うものは極刑に処せられることもありうるということだ。

実際、サウジアラビアでは魔術師に死刑判決が下ることがよくあるし、占星術師が逮捕されたというケースも少なくない。でも、それにもかかわらず、サウジアラビアで発行されている新聞や雑誌にはけっこう占星術(アブラージュ)のコーナーがあったりするので、このあたりサウジ人もけっこう融通が利くのかもしれない。

あるいはそれだけ需要があるということだろうか。それとも、サウジアラビアだと占星術師も命がけだから、的中率も高いのか。

ちなみに、雑誌Vogueで昨2018年10月2日の乙女座の仕事運をみてみると、かなり悪いことになっている。「波乱運。決断や行動が遅くなり、全体のペースを乱してしまいそう。ミスに注意しながら、スピードアップを心がけて」とある。

なお、乙女座とはサウジアラビアのムハンマド皇太子の星座である。一方、Vogueの占いだと、その日、イスタンブルのサウジ総領事館で殺害されたジャマール・ハーショグジー(ジャマル・カショギ)の天秤座は絶好調だ。もちろん、日本とトルコでは遠く離れているので、星座が同じだからといって、同じ運命をたどるとはかぎりません。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易摩擦の激化、世界インフレ見通しを複雑化させる=

ワールド

トランプ氏側近ウィットコフ特使がプーチン氏と会談、

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き 

ワールド

EXCLUSIVE-ウクライナ和平案、米と欧州に溝
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story