コラム

中東の沙漠で洪水が頻繁に発生する理由

2018年12月21日(金)16時00分

洪水被害のあったヨルダンの観光地、死海で生存者を探す捜索隊(2018年10月) Muhammad Hamed-REUTERS

<ヨルダンで今年、大規模な洪水が起き、多数の死傷者が出た。乾燥した沙漠の国で、である。以前クウェートに住んでいたときに車の水没に遭遇したこともある。実は、大金持ちの産油国も含め、中東で洪水は珍しくない>

イスタンブルでのサウジ人ジャーナリスト殺害事件とかシリアで拘束されていた安田純平さん解放など、わたしの専門分野に関連するところで大きな事件が頻発していたため、原稿執筆やメディア対応などでここ数ヶ月は多忙を極めていた。

それがようやく落ち着いてきたかなあといった矢先、また某テレビ局から電話があり、ヨルダンについてご存知であれば、コメントをいただきたい、ご存知でなければ、どなたかくわしいかたを紹介してほしい、という。

基本めんどくさがりなので、専門外の地域のことだと、だいたいきちんとした専門家を紹介して終わりにしてしまうのだが、今回は珍しく自分からすすんでインタビューを受けることにした。テーマが、ヨルダンにおける洪水の話だったからである(ちなみに、そのしばらくあとにヨルダン国王が来日したときも、同じテレビ局から問い合わせがあったのだが、そのときは正しいヨルダンの専門家を紹介してさしあげた)。

もちろん、わたしは気象予報士でもないし、今回の洪水の原因の一つとして疑われていた気候変動についても人並みの知識しかもちあわせていない。では、なぜすすんで話をしようとしたかというと、実は、中東における「雨」についてかねてより並々ならぬ関心をもっており、その雨をテーマにいくつか原稿も書いていたからだ(ただし、数千年前に起きた洪水についてだったり、あとは雨乞いとか、雨を降らせる霊力のある石についてだったりですけどね)。

なお、ヨルダンでは2018年だけにかぎっても、断続的に国内各地で洪水が発生している。4月と10月には死海付近で、11月には古代遺跡のあるペトラなどで大規模な洪水が起き、いずれも多数の死傷者を出してしまった。

ヨルダンといえば、乾燥した沙漠の国である。首都のアンマンだと、年間降雨量が250mm程度、洪水があったペトラだと年間100mmほどしか雨は降らない。しかも、雨季である冬に降雨が集中している。250mmだとしても、雨の多い日本なら、激しい雨だと1日や1時間で降ってしまう量である。

今回のヨルダンで降った雨がどれぐらいだったのかはわからない。ペトラ遺跡を流れる洪水の動画をみるかぎり、相当な量だったと想像できる。気候変動・温暖化の影響も否定できないだろう。実際、ヨルダン政府は、国連と協力しながら気候変動がもたらす災害について対策を立てていたともいわれている。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 2期目初の

ビジネス

日中韓貿易相会合、地域貿易の促進で合意 トランプ関

ワールド

トランプ氏、貿易政策強化へ顧問に圧力 一律関税構想

ワールド

ハマス、仲介国提示の新たなガザ停戦案受け入れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 9
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story