コラム

バーレーンの金メダリストの大半は帰化人だった

2018年09月26日(水)11時55分

個人種目でメダルを取ったはじめてのパキスタン人女性選手

なお、今回のアジア大会で個人的にもっとも興味深かく見たのは、空手で銅メダルを取ったパキスタンのナルギス・ハミードゥッラー選手であった。実は彼女は、アジア大会の個人種目でメダルを取ったはじめてのパキスタン人女性選手となったのである(パキスタンの女性選手はアジア大会でもオリンピックでもメダルを取ったことがなかったらしい)。

パキスタンでは、女子教育の必要性を主張して過激派に襲われ、瀕死の重傷を負ったマラーラ・ユースフザイ(マララ・ユスフザイ、のちにノーベル平和賞受賞)がいるように、ナルギスのケースは、女性アスリートががんばって銅メダルを取りましたというだけの話ではないのである。

ナルギスは、マラーラよりもさらに困難な状況にあるといっていい。彼女はパキスタン東部バルーチスターン州クエッタで生まれたのだが、実は少数民族ハザーラ族に属している。ハザーラ族は、伝説によると、チンギス・ハーン時代のモンゴル帝国千人隊の子孫とされ、実際ハザーラ族の顔は、モンゴロイド系の特徴をもっており、他のパキスタン人とは明らかに異なっている。

しかも、宗教的には少数派のシーア派に属している。そのためパキスタンではハザーラ族はさまざまな迫害・差別を受けてきた(ちなみにマラーラはスンナ派で、少数派ではあるが政治的影響力の大きいパシュトーン族)。2013年1月から2月にかけて相次いでクエッタで発生したテロ事件では数百人の死者が出たが、クエッタのシーア派コミュニティーを標的にしたもので、ナルギスの親族も犠牲者に含まれていたのである。

残念ながらナルギスの活躍は日本の主要メディアではほとんど報じられなかった。せっかくのアジア大会、他のアジア諸国について知るいい機会だったと思うのだが。

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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