- HOME
- コラム
- イスラーム世界の現在形
- バーレーンの金メダリストの大半は帰化人だった
バーレーンの金メダリストの大半は帰化人だった
カタルの場合も、男子400メートルの金メダルはアブデルイラーフ・ハールーン(スーダン)、男子ハンマー投げはアシュラフ・セイフィー(エジプト)、男子400メートルハードルはアブドゥッラフマーン・サンバ(モーリタニア)だ。同様に男子4×400メートルでは4人中3人が外国出身選手であり、ビーチバレーも2人中1人が外国生まれ、ハンドボールチームもエジプト、シリア、フランス、キューバ、ボスニアなどさまざまな国からの帰化選手が混じっている。
同じ湾岸アラブ産油国でもたしかにクウェートやUAEのメダリストにも帰化選手が含まれているが、それほど目立つわけではない。また、サウジアラビアでは帰化選手のメダリストはいなかったし、上述のようにオマーンは今回メダルを取れなかった。バハレーンやカタルだけがこのようなアグレッシブな有力選手獲得政策を採っているのである。
頭脳流出ならぬ肉体流出でナイジェリアと対立?
取り立てて特徴のない小国だからこそ、スポーツで国威発揚することで、みずからの存在を内外にアピールする必要があるということだろうか。
お金の力といってしまえば、それまでだが、たしかに天然ガス大国であるカタルはめちゃくちゃ金持ちだけれど、バハレーンは石油がほとんど枯渇しているので、けっして金持ちというわけではない。実際、バハレーンでは失業や経済の低迷で暴動まで発生しているのである。逆にいえば、こうした国難の時期であるからこそ、スポーツで国威発揚させ、バハレーン人としてのアイデンティティーを強める必要があるとも考えられる。
一方、カタルは大金持ちなので、経済面の心配をする必要はない。しかし、1990年代なかごろから、カタルは独自外交を展開し、周辺国と対立してきた。昨年にはそのせいでサウジアラビア・UAE・バハレーン・エジプトと断交され、経済封鎖までされているのである。やはり、カタル人意識を高めなければならないという認識は指導層にはあるはずである。
もちろん、バハレーンもカタルも報道の自由も政治的自由もないので、お上がこうした政策を取ったとしても、下々は唯々諾々と従わざるをえない。
もちろん問題はある。たとえば、バハレーンのメダリストのなかではナイジェリア出身者が目立つが、ナイジェリアのスポーツ関係者からみれば、せっかくの有力選手が金の力でごっそり引き抜かれるわけで、たまったものではないはずだ。両国間で頭脳流出ならぬ肉体流出をめぐって対立があるとも報じられた。
とくにアフリカの選手からみれば、よりよい環境を求めて国籍を変えるというのが選択肢として一般的になっているのだろう(だからこそメダルがアフリカ出身選手が得意とする陸上に集中するということか)。
アントニオ猪木、歴史に埋もれたイラクでの「発言」 2022.11.14
研究者の死後、蔵書はどう処分されるのか──の、3つの後日談 2022.07.28
中東専門家が見た東京五輪、イスラエルvsイスラーム諸国 2021.08.16
日本人が知らない、社会問題を笑い飛ばすサウジの過激番組『ターシュ・マー・ターシュ』 2021.06.02
トルコ宗務庁がトルコの有名なお土産「ナザール・ボンジュウ」を許されないとした理由 2021.02.25