コラム

サウジ国王来日 主婦はほんとに爆買いにしか関心ないんですかね

2017年03月21日(火)17時30分

首相官邸での晩餐会に出席したサルマーン国王(2017年3月13日) Tomohiro Ohsumi-REUTERS

<ワイドショーまでもがサウジアラビアの話題を取り上げた、先週のサルマーン国王ご一行騒動記。取材をたくさん受けたが、ほんとにガックリだった。一番驚いたのは元AKBの高橋みなみのラジオ番組だ>

3月12日から15日、サウジアラビアのサルマーン国王一行が日本を訪問した。ふだん、サウジアラビアをメディアが取り上げることはめったにないのだが、今回ばかりはちがっていた。一行の到着前から報道番組だけでなく、何とワイドショーまでもが積極的にサウジの話題を取り上げてくれたのである。

こちらも中東でテロや戦争が起きたときしかメディアに呼ばれることはないので、昔住んでいたことのあるサウジアラビアについてメディアでしゃべれるのはけっこううれしかったりする。

とはいえ、いやな予感がなかったわけではない。随行員の数が1000人、あるいは1500人になるとか、ハイヤー借り上げ400台、エスカレーター式の飛行機のタラップといった金満ぶりを伝える報道が先行してしまったからである。

案の定、こちらへの問い合わせの大半はそれに費やされた。罪作りなことに安倍首相みずから訪日サウジ人たちがデパートで買い物をするというようなことを匂わしたので、サウジご一行さまが秋葉原や銀座で爆買いするらしいとの噂が駆け巡ってしまったのである。

その結果、テレビのインタビューではほとんどかならず、ホテルはどこですか、どこで買い物するんですか、何を買うんですか、ばかり訊かれ、本来の来日の目的などどこかに吹っ飛んでしまった。

挙句の果てに、妻の友人のワイン輸入業者からも問い合わせが入り、随行団の泊まるホテルを教えてほしいときた。おそらく1000人以上の人がくるなら、ワインも足らなくなるはず。だから今、営業をかければ、という魂胆だったのだろう。いちおうサウジアラビアはイスラームの国で、お酒は飲めないことになっているとは伝えたが、果たして結果や如何。

こうなったのにはサウジ側の責任もある。1年半ほどまえ、今回来日したサルマーン国王がカンヌなどで有名な南フランスにバカンスに出かけたときのこと。海岸への立ち入りを規制したり、それこそ爆買いしたりして、住民の顰蹙を買ったり、サウジ特需で喜ばれたりといった騒ぎがあったのだ。おそらくこのときの印象が残ったのだろう、「サウジご一行=爆買い」というイメージが固定してしまったのではないか。

しかし、少し考えればわかるが、バカンスで南仏に滞在するのと、公式訪問で東京にくるのでは性質がまったくちがう。いちおうインタビューのたびに、今回は公務だから、一部の例外を除けば、爆買いなんかしないですよ、とは話していたのだが、インタビュアーのなかにはその答えで満足できない人もおり、何度も撮り直しをくらうことがあった。

日本は輸入する石油の3割以上をこの国に頼っているのに...

そのとき気づいたのだが、とくにワイドショーと呼ばれる番組だと、「うちの視聴者の大半が主婦なので」というのを理由に、上のような金満・爆買いの話題ばかり振ってくることがあり、また主婦でもわかるように話をしてくださいと要求されるケースも何度かあった。

考えてみれば、これは相当失礼な話で、日本の主婦ってほんとにそんなことにしか関心がなく、ニュースも噛みくだいて話さないと理解できないんですかね(個人的には十分噛みくだいたつもりだったんだけど)。いやそのまえに、そもそも、専門家の小難しい話を噛みくだいてわかりやすく伝えるのは、メディアの仕事ではないんですかね。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story