アングル:TikTok米事業売却、ホワイトハウス主導という異例事態に

3月17日、 中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業売却問題が注目される中で、ホワイトハウスがまるで投資銀行のような役割を果たし、バンス副大統領自らが入札を取り仕切っている。写真はTikTokの @realdonaldtrumpのアカウントを表示したスマーフォンの画面。ワシントンで1月撮影(2025年 ロイター/Shannon Stapleton)
Dawn Chmielewski Kane Wu Krystal Hu
[17日 ロイター] - 中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業売却問題が注目される中で、ホワイトハウスがまるで投資銀行のような役割を果たし、バンス副大統領自らが入札を取り仕切っている。ホワイトハウスが民間の取引にこれほど深く関与するのは極めて異例で、売却合意に至る道筋をより複雑にしている状況だ。
買い手候補と主に接触しているのはバンス氏の筆頭法務顧問で元連邦選挙委員会委員長のショーン・クックジー氏。ワイオミング州の起業家でティックトック米国事業買収に名乗りを上げているリード・ラズナー氏によると、このクックジー氏が意見を返したり、買収案の修正を提案したりしている。
ティックトックの米国事業は1億7000万人の利用者を抱える。ただ中国の親会社字節跳動(バイトダンス)が米国内で買い手を見つけられない場合、サービスを停止しなければならない。
トランプ大統領は、今のところ4つの異なるグループが買収を申し入れていると説明。9日には「多くの人が欲しがっている。どうなるかは私次第だ」と語った。
しかしコロンビア大法科大学院で教える政府倫理問題専門の弁護士リチャード・ブリフォルト氏は、上場企業同士のディールを戦略的な理由から米政府が仲介するケースは珍しくないとはいえ、ホワイトハウスが直接入札プロセスを監督するのは常軌を逸しているとあきれる。
ブリフォルト氏は「このような事例は全く知らない。関与しているのは政府の最上層部で、対象企業は戦略的に重要かどうかはっきりしない」と指摘した。
ホワイトハウスはバンス氏や側近らへのコメント要請に答えず、ティックトックからも回答はなかった。
ティックトックの米国事業を巡っては、ロサンゼルス・ドジャースの元オーナーとして知られる投資家のフランク・マッコート氏がカナダの投資家ケビン・オライリー氏、米オンライン掲示板運営レディットの共同創業者アレクシス・オハニアン氏と組んで買収に意欲を見せている。また事情に詳しい関係者によると、ソーシャルメディアの人気者ジミー・ドナルドソン氏もこのグループに合流する協議を進めているという。
マッコート氏はロイターに、入札プロセスは通常とはかけ離れていると説明。資産の定義、評価額はなく、バイトダンス側はディールの主幹事を務める投資銀行も雇っていないと明かした。
さらにマッコート氏は、中国政府がティックトックの事業売却に発言権を持っており、バイトダンスは米国のアプリを停止する可能性があるとの見方も示した。バイトダンスは米国事業売却に多少関与しているが、積極的な売り手として期待されるほどではない、というのがマッコート氏の印象だ。
複数の買い手候補は、期限に定められた4月5日までに合意するための交渉の状況は流動的と話す。
<過去との違い>
米政府が民間企業のディールに介入したケースは以前にもあった。ただそれは放置すれば独占禁止法に抵触する、外国投資家による米企業の支配を防ぐ、金融機関の破綻を回避する、といった動機だった。
また財務省は、重要技術やデータ、インフラを所有したり管理したりしている米企業への外国からの投資には常に目を光らせている。日本製鉄によるUSスチール買収計画はこれに該当するし、2008年の金融危機に際しては連邦準備理事会(FRB)がJPモルガンのベア・スターンズ買収など幾つかのディールの仲立ちをした。
とはいえブリフォルト氏によると、ティックトックの米国事業売却におけるホワイトハウスの動機は今一つ判然としない。「過去と違うのはティックトックが米国で戦略的に重要な存在か、あるいは売却されなかったとしても、国家もしくは経済に資金面、戦略面で重大な弊害をもたらすようには見えない点だ」という。
ティックトックの米国事業の売却価格や評価額は、そのアルゴリズムを含めるかどうかで大きく変わる。何人かの株式アナリストの試算に基づくと、アルゴリズム込みの評価額は500億-1000億ドル(約15兆円)に上る。
ウェドブッシュのアナリスト、ダン・アイブス氏は、アルゴリズムなしの売却額が400億-500億ドルになるだろうと見積もった。
アルゴリズム込みの米国事業を474億5000万ドルで買収することを提示したラズナー氏は、自身の弁護士チームがバイトダンス側のワシントンのロビイストや法務顧問、ホワイトハウスと接触していると述べた。
落札に向けた競争は激しく、「非常に荒れ狂う海を進んでおり、多くの流動的な要素がある」と打ち明けた。