焦点:ウクライナ、停戦合意で達成した「当座の目標」 根本は未解決

3月12日、 ウクライナは米国が示した30日間の停戦案を受け入れることで当座の重要な目標を達成した。写真はロシア軍の攻撃で破壊されたクリブイリフのホテル。同日撮影(2025年 ロイター/Mykola Synelnykov)
Tom Balmforth Max Hunder
[ロンドン/キーウ 12日 ロイター] - ウクライナは米国が示した30日間の停戦案を受け入れることで当座の重要な目標を達成した。中でも、トランプ米大統領との関係を修復できたことは大きい。しかし、ロシアとの紛争の根本的な問題は今もなお解決を見ていない。
米政府は11日、サウジアラビアのジッダで行われた8時間余りに及ぶ協議後、ウクライナへの軍事支援や機密情報の共有を即時再開し、ウクライナは大きな成果を手にした。米国はウクライナの合意した暫定的な停戦案をロシアに示すと発表。実現はロシア次第だとの認識を示し、高まるばかりだったウクライナへの圧力は和らいだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領の外交顧問を務め、今回の協議にも加わったイーホル・ジョウクヴァ氏によると、ウクライナ代表団は複数の案を用意して協議に臨み、その中には空域と海域に限って停戦する「部分的停戦」案も含まれていた。
ジョウクヴァ氏によると、会談中に米国から広範な停戦の提案があった。ゼレンスキー氏が12日に記者団に語ったところによると、ウクライナ側は協議を一時中断して代表団が指導部と協議し、その後この提案に同意したという。
ジョウクヴァ氏はロイターの電話取材で「われわれにとっては、2つの重要な要素と同時に停戦を進めるという方針について理解を得ることが非常に大事だった。その要素とは軍事支援と情報共有の一時停止の即時解除だった」と振り返った。その上で、米国がこうした一時停止措置を即座に解除したことが今回の会談と共同声明における「最も重要な成果」の一つだとした。
今回の会談について、全体的な雰囲気が「建設的」だったと評価。ウクライナと米国は二国間関係を修復しただけでなく、対等なパートナーとして共同で行動する間柄になったと強調した。
また、ジョウクヴァ氏は、今回の会談では領土に関する議論がほとんど取り上げられず、停戦は和平プロセスの第一歩にすぎないとの認識も示した。「ウクライナは決して領土を譲らない。極めて単純だ。そのような声明や宣言はあり得ない。なぜなら、それには憲法の改正が必要だからだ」と訴えた。
<根本的問題は未解決>
一方、2019年から20年まで国防相を務めた軍事アナリストのアンドリー・ザゴロドニュク氏は、米国との関係が顕著に改善したことを成果に挙げつつ、根本的な問題は未解決だと指摘した。米国がロシアとの直接的な外交交渉を開始し、ウクライナ戦争に関する政策を大きく転換してから数週間が経過したが、その状態は今でも変わらないとの立場だ。
「ロシアが和平と引き換えに何を求めるのか、まだ分からない。米国がウクライナの立場を支持するのか、それともウクライナの主張は基本的にロシアほど重要ではないと考えるのか、それも分からない」と言う。
英王立国際問題研究所チャタム・ハウス9のロシア・ユーラシア・プログラムの上級コンサルティングフェロー、キール・ジャイルズ氏も同じ見方だ。「今の前線を固定することは、戦争が本当に終結するという長期的な保証のないままロシアに利益を与えてしまうリスクを伴う。それによってロシアが現在支配している地域が事実上恒久化された支配地域となり、紛争が解決されるのではなく凍結されることになりかねない」と話す。
ロシア政府は12日、米国からの停戦提案の詳細を待っていると発表した。一方、ロシア政府高官筋は、合意にはロシアの進軍状況が考慮され、ロシアの懸念が反映されるべきだと述べた。
しかし、ウクライナ政府に近い消息筋によると、協議後のゼレンスキー陣営の雰囲気は前向きで、ロシアが停戦提案に不意を突かれたとの感触だったという。この消息筋は「これはチェスにおける強力な王手だ」と述べた。
匿名を条件に取材に応じた元ウクライナ高官の安全保障関係者は和平プロセスについて、ここまでの展開は予測した通りだと語った。「しかし、おそらくロシアはこの合意を破綻させるだろうし、その際の米国の反応を見極める必要がある」と指摘。「ロシアが挑発的な行動を取り、トランプ氏を怒らせるかもしれない。そしてその時にこそ強力な軍事支援を手に入れるチャンスが生まれる」と述べた。