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焦点:伊メローニ首相、移民規制の一方で外国人労働者の受け入れ拡大

2023年12月11日(月)17時10分

  12月6日、 マドウ・コウリバリーさんは、歴史あるイタリアに来てまだ日の浅い新顔だ。写真は11月、ローマの議会で答弁に立つメローニ首相(2023年 ロイター/Remo Casilli)

[ローマ 6日 ロイター] - マドウ・コウリバリーさん(24)は、歴史あるイタリアに来てまだ日の浅い新顔だ。

ギニア出身のコウリバリーさんがこの国に来たのは2018年。人手不足を外国人労働者で埋める取り組みの一環として、トスカーナ地方初の移民出身バス運転手になった。誰よりも驚いたのはコウリバリーさん自身だった。

「バスの運転手なんてとんでもない、できるわけがないと言った」とコウリバリーさんは回想する。「アフリカ人がイタリアでバスを運転するなんて。しかも、船で渡ってきたアフリカ人がね」

コウリバリーさんが経験したのは、メローニ伊首相による移民政策の対照的な2つの側面のうち、「歓迎」サイドだ。

メローニ氏は昨年10月、国家主義的な政策を掲げて政権の座についた。移民規制の強化による北アフリカからの不法入国の摘発、海難事故に遭う移民を救助する慈善団体への規制、アルバニアでの移民収容所の建設計画といった公約により、国際的な注目を集めた。

だがその一方でメローニ首相は、イタリア国内で深刻化している人手不足を埋めるため、数十万人の移民に門戸を開き、合法的な就労を認めようとしている。イタリアは世界で最も高齢化が進み、人口減少に直面している国の1つだ。

イタリア統計局の予測では、2050年までにイタリアの人口は約500万人減少し、人口の3分の1以上が65歳以上になる。建設や観光、農業に至るまで、多くの産業が若い力を切実に必要としている。

タヤーニ外相は10月、チュニジアと3年間の協定を結び、年間最大4000人のチュニジア人を対象にビザ発給と在留許可手続きを簡素化した。同外相は、メローニ政権は移民そのものには特に反対していないと語る。

タヤーニ外相は11月21日、国会で「イタリア、そして欧州に誰が入ってくるかは我々が選びたい。人選を密入国斡旋業者に任せておくわけにはいかない」と発言した。

労働市場の専門家で元保守派議員のジュリアーノ・カッツォーラ氏は、経済と人口動態の現実が政府の反移民姿勢を弱めているとの考えを示した。

「移民の受け入れが、イタリアの人口を増やす最も簡単な手段だと私は確信している」とし、「今日生まれた赤ん坊が労働市場に参入するのは20年後だ。一方で、ここに到着する20歳(の移民)はすぐに働くことができる」と述べた。

<収容センターからの直接採用>

メローニ政権は不法移民の流入増加に歯止めをかけるという公約を掲げたが、ほとんど成功していない。

イタリア政府のデータでは、今年に入ってから北アフリカから海路で到着した人数は15万3000人に迫り、2022年の同時期の約9万6000人、同21年の6万3000人に比べ急増した。通年での史上最高となった2016年の18万1400人も目前だ。

一方でイタリアは、非EU諸国の市民に対する就労ビザの割り当てを、2023─25年の3年間で45万2000人分に増やし。これに先立つ3年間に比べ150%近い増加だ。今年の割り当て13万6000人は、2008年以降で最多となる。

就労ビザはすでに就職先を確保している人々のために用意されたもので、現に国内で不法就労している移民がこの割り当てを利用し、合法的な地位を獲得することになるのが普通だ。

だが、人手不足を解消するにはこれでも足りない。

政府の試算では、2023─25年に産業界や労働組合から要請される就労許可件数は、83万3000人分に上るる。今年分の割り当てについては事前申請分だけで60万件もあり、大幅な定員オーバーとなった。

イタリアの労働力危機が特に深刻なのは、豊かな北部のブレシア州などの地域だ。ブレシア州の失業率は約4%で、全国平均の半分ほどしかない。

経営者団体「コンフィンドゥストリア」は地方自治体と提携し、経営者が亡命申請者収容センターから労働者を直接選抜、採用できるようにする仕組みを立ち上げた。

コンフィンドゥストリア傘下の建設業界団体が運営するブレシアの研修センターで所長を務めるパオロ・ベットーニ氏は、「喉から手が出るほど人を求めているが、イタリアの若者にアピールする力はない。彼らは肉体労働を二流の仕事と思っていて、もはや何の関心も示してくれない」と話す。

地方自治体の当局者によれば、これまでに800人以上の候補者の中から約200人の亡命申請者が選抜されたという。計画では、選抜された人々と研修機会について協議し、1月をめどに研修を開始し、その後の雇用につなげたいとしている。

イタリアでは経済成長が鈍化しており、経済協力開発機構(OECD)加盟の38カ国では唯一、過去30年間でインフレ調整後の賃金が低下している。

小売企業のロビー組織「コンフコメルシオ」のブレシア州支部長カルロ・マソレティ氏によれば、州内の企業は人手不足に伴う機会損失で収益の約20%を失っており、特に厨房スタッフ、ウェイター、ホテルスタッフは欠員補充が難しくなっているという。

<「唖然としたのは私だけか」>

メローニ氏は9月、政界における長年にわたる盟友であるハンガリーのビクトル・オルバン首相がブダペストで開催した首脳会議に出席し、自らの右派としての立場を確認。「現代は、私たちが私たち自身であるための全てが攻撃にさらされる時代だ」と述べた。

メローニ氏は、イタリア、欧州における人口問題については、国民の出生率を上げることが最善の策だと述べる一方で、合法的移民の割り当てが各国経済にとって「積極的な寄与」になり得ることを認めた。

硬軟織り交ぜたメローニ首相の移民政策については、政権内の連立相手から、弱腰と指摘する声もあがる。

11月28日、連立を組む「同盟」党首で、年来の強硬な反移民派であるサルビーニ副首相は、「優先すべきは移民の流入を食い止めることだ」と語った。

トスカーナ州議会でメローニ氏の与党「イタリアの同胞(FDIO)」代表を務めるフランチェスコ・トルセッリ氏は、地元の運輸会社アウトリネー・トスカーネがフィレンツェでコウリバリーさんのような移民運転手を採用したことを「紛れもない恥さらし」と非難した。

トルセッリ氏は、亡命申請者を選抜・採用する計画が始まった昨年10月、インスタグラムに「移民を採用できるなら、たぶん給料はこれまでより安くて済むだろう。運転手の給与を上げる話にはならない」と投稿した。「これが、トスカーナ州でのバス運転手不足問題に対してアウトリネー・トスカーネがとった『解決策』だという。唖然としたのは私だけだろうか」

アウトリネー・トスカーネは、イタリア人と外国人労働者との間に差別はなく、移民労働者に国内労働者より低い賃金を提示している事実がないとしている。

コウリバリーさん自身は動じていない。

コウリバリーさんは在留許可を得ていたにも関わらず、最近まで移民収容センターで暮らしていた。フィレンツェでは手頃な住宅がなかなか見つからなかったからだ。

コウリバリーさんは、バス運転手の仕事を自分の「イタリアン・ドリーム」を追求するチャンスだと捉えており、新たにやってくる移民が後に続けばいいと思っている。

「この仕事をやるのは、自分のため、家族のため、そしてイタリアにいる全ての移民のためだ。多くの人が、自分たちはみなダメな人間で、自分にはできない仕事があると思い込んでいるが、それは事実ではないのだから」とコウリバリーさんは話した。

(翻訳:エァクレーレン)

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