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焦点:ロシアのプライベートジェット、親ロ国などに着陸限定 制裁で

2023年11月12日(日)08時02分

昨年2月のウクライナ侵攻に伴う西側諸国の対ロシア制裁下にあって、ロシアの富豪や権力者らは個人所有機を維持できる方法を探り出しつつあるものの、旅行可能な地域は急激に狭められているようだ。写真は6月、サンクトペテルブルクの空港に到着する自家用機(2023年 ロイター/Luba Ostrovskaya)

Gleb Stolyarov

[9日 ロイター] - ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の1人、ウラジミール・イェフトゥシェンコフ氏が個人所有しているとみられるボーイング737旅客機は、ロシアによるウクライナ侵攻開始前の2年間、フランスの保養地リビエラからモルジブ、セイシェルといったリゾート、あるいは世界各地の首都や金融センターを自由に飛び回っていた。

一方で、この飛行機は今年、カザフスタンやキルギスタン、ベラルーシといった旧ソ連諸国や中国にごく限られた回数立ち寄っただけであることが、世界中の航空機の運航状況を追跡するウェブサイト「フライトレーダー24」のデータから分かった。

昨年2月のウクライナ侵攻に伴う西側諸国の対ロシア制裁下にあって、ロシアの富豪や権力者らは個人所有機を維持できる方法を探り出しつつあるものの、旅行可能な地域は急激に狭められているようだ。

今年8月上旬時点の登録情報をロイターが確認したところでは、イェフトゥシェンコフ氏の保有とみられるボーイング737を含めて、昨年2月のウクライナ侵攻以降にロシア国籍として再登録されたプライベートジェットは少なくとも50機存在する。

2人のロシア航空業界関係者の話では、幾つかのこうした再登録機は有力政治家や経済界の大物に帰属している。2人は、イェフトゥシェンコフ氏がボーイング737を個人的に使っていたとも認めた。

このボーイングは昨年まで、イェフトゥシェンコフ氏が創業した複合企業システマのログが機体に描かれていた。

イェフトゥシェンコフ氏から、ボーイングを使用していたかどうかなどの質問に回答を得られていない。同氏は昨年に英国から制裁を科された後、システマの経営権を正式に手放したものの、なお主要株主にとどまっている。

<裏技も活用>

ロシア国籍となったプライベートジェットの一部は当初、オランダ自治領アルバや英王室に属するマン島などが登録地だったが、これらの地域は西側の制裁を順守しており、保険契約の締結や燃料の入手が困難になったほか、ロシア人保有機は領空を飛行できなくなった。

そこで、これらの飛行機はロシア国籍に転換することで、ロシア機に対して飛行禁止措置を導入していない、あるいはロシア人の個人旅行を制限していないトルコやドバイ首長国などを引き続き飛ぶことができる状況を確保した。

ただ、ロシアのプライベートジェットや社有機合計約400機の半分以上は、今もなお外国で足止めされているか売却された、と先の関係者は見積もっている。

ロシアのオリガルヒは以前ならビジネスや余暇の目的で頻繁に欧州連合(EU)加盟諸国まで飛行機を飛ばしていたが、現在は制裁が発動されているので域内に入ることは禁じられている。

こうした中で何人かのロシア人プライベートジェット保有者は、自身が個人旅行を禁止されていない場合は、いったんロシアからトルコや旧ソ連諸国に飛び、それから別の飛行機をチャーター(貸し切り利用)してEU域内の空港に降り立つという「裏技」を駆使しているとされる。

<プーチン氏周辺が保有か>

ロシア国籍に再登録された飛行機の一部は、プーチン大統領のウクライナ侵攻を支持するか、プーチン氏に近い国営企業や経営者らが保有しているようだ。

例えば、あるボンバルディア・チャレンジャー650は、ロシア最大のカリ肥料製造会社ウラルカリによって輸入された。同社元経営トップのドミトリー・マゼピン氏は今年、プーチン氏が主催した有力起業家の集まりに顔を出していた。

ボンバルディア・グローバル6000を輸入したVEBは国営開発銀行で、トップのイーゴリ・シュワロフ氏は元第一副首相だ。

ウクライナ侵攻後にロシア国籍に再登録されたプライベートジェットの大半は、旧ソ連諸国やアラブ首長国連邦(UAE)、トルコから帰還したことも分かった。

イェフトゥシェンコフ氏のボーイングと同じく、他の飛行機もEUの空域を避け、ロシアの友好国の領空を飛び続けた、とフライトレーダー24のデータは示している。

ロイター
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