アングル:日本のコメ市場開放迫る「内圧」、関税交渉に影響か

4月21日、コメの価格が顕著に上がり始めた昨年、東京で飲食店を経営する平野新さんは一つの決断をした。店で使うコメを米国産に切り替えた。写真はカリフォルニアのカルローズ米を茶碗に盛る平野さん。都内で14日撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Kaori Kaneko Chang-Ran Kim
[東京 21日 ロイター] - コメの価格が顕著に上がり始めた昨年、東京で飲食店を経営する平野新さんは一つの決断をした。店で使うコメを米国産に切り替えた。
平野さんが仕入れるカリフォルニアのカルローズ米も初めて購入した時から価格が倍増したものの、依然として国産米を大幅に下回る。「今後、国産米の価格が落ち着いた場合でも、カルローズ米の価格を下回らなければ変えないと思う」と平野さんは話す。
輸入米に目を向けた平野さんの変化は、日本の企業や消費者の価値観が転換しつつあることを示唆しているのかもしれない。関税を巡るトランプ米政権との交渉で、コメの市場開放に向けた日本の決断を後押しする可能性がある。
<1993年の光景とは対照的>
国産米の卸売価格はこの1年で7割上昇した。天候不順と訪日外国人増による需要拡大が米不足の要因とされており、今年も状況は変わらないとみられている。
物価高が生活費を押し上げる中、コメを扱う企業は日本人の国産米へのこだわりに変化が起きるかどうか注目している。
小売大手のイオンは試験販売を経て、米国産8割、国産2割のブレンド米の取扱を本格的に開始した。外食チェーンの松屋フーズとコロワイドは今年に入って一部店舗で100%米国産米を使い始めた。西友では昨年から台湾産米を販売し、売れ行きは好調だという。
1993年に深刻なコメ不足に直面し、政府が輸入したタイ米が消費者に受け入れられずスーパーに山積みされた光景とは対照的だ。
過去60年間、日本で主食として使われるコメはほぼ全て国産だった。関税で国内の農家を保護する一方、輸入の必要性も限られていた。
日本は主食用のコメに対し、「ミニマムアクセス」として年間10万トンの無関税枠を設けている。総消費量の約1%に相当し、その枠外の輸入には1キロ341円を課税している。昨年度の無関税枠のうち米国産が約60%を占め、オーストラリア、タイ、台湾が続いた。
トランプ大統領は2日に相互関税を発表した際、日本のコメ輸入を名指しし、関税率が「700%」と批判したが、日本の当局者らは古い国際価格に基づくものだと反論している。
17日から始まった日米の関税交渉でコメの扱いがどうなるかまだ不明だ。日本が無関税で輸入している米国産米はすべて民主党が強いカリフォルニア州で作られていることから、共和党のトランプ大統領が本気で日本に市場開放を求めることはないとみる向きもある。
日本の財務省が15日の財政制度等審議会の分科会で、無関税枠の上限を引き上げる案を示したことは変化の表れかもしれない。それでも7月の参議院選挙を控え、与党の自民党が支持基盤である農家の反発を買うような決断を下す可能性は低いとみられている。
「米国との交渉において、コメについて大幅に譲歩することは参院選直前にはありえないと思う」とオウルズコンサルティンググループの菅原淳一シニア・フェローは指摘する。
石破茂首相は20日のテレビ番組で、「食の安全を譲ることはない」と述べる一方、「どうやって日本の農業を強くしていくか、一つのきっかけにできればいい」と説明した。
<民間が大量輸入の動き>
日本でコメの価格が上昇し始めてから1年以上が経つが、供給不足は依然として解消していない。今年3月まで24年度1年間の主食用米の無関税輸入枠は7年ぶりに上限の10万トンに達し、関税対象の民間輸入は2月までの11カ月間だけで、前年度12カ月間比4倍の約1500トンに急増した。
総合商社の兼松は今年、主食用米1万トンというかつてない規模の米国産米を輸入しようとしている。同社の広報は「外食産業、コンビニ、スーパー、コメ卸などから多く引き合いがある」とした。
農林水産省によると、3月31日ー4月6日週の平均販売価格はスーパーマーケットで5キロ当たり4214円。14週連続で上昇し、前年同期から倍増した。政府は25年産米が出回る前の7月まで、凶作や災害緊急時のために確保してきた備蓄米の放出を続ける。
平野氏が営む「食堂新」に初めて来店したという女性(44)は輸入米の品質と味に満足し、「全く気づかなかった。輸入米を食べることに抵抗はない。価格が高くなったので、安いところで買うようにしている」と語った。
(金子かおり、金昌蘭 編集:Edwina Gibbs、久保信博)