アングル:中国低迷やインフレが販売直撃、デザイナー刷新に賭ける高級ブランド

3月20日、 高級ファッション市場の低迷により、グッチやシャネル、ディオールといったトップブランドではデザイナーの顔触れを刷新する動きが出ている。写真は11日、パリで開かれたシャネルのショーで撮影(2025年 ロイター/Sarah Meyssonnier)
Mimosa Spencer Elisa Anzolin Tassilo Hummel
[パリ/ミラノ 20日 ロイター] - 高級ファッション市場の低迷により、グッチやシャネル、ディオールといったトップブランドではデザイナーの顔触れを刷新する動きが出ている。富裕層の顧客を混乱させかねない過激なリセットを避けつつ、ブランドの活力を取り戻そうという狙いだ。
グローバル高級品市場の規模は3630億ユーロ(約58兆6100億円)だが、中国の景気後退やそれ以外の国でのインフレ加速により、富裕層の消費者も高額出費に消極的になっており、ここ数年で最悪の鈍化に悩まされている。
英高級百貨店リバティーでグループ全体のバイヤー及びマーチャンダイジング部門のディレクターを務めるリディア・キング氏は、「創造性と商業的成功をバランスさせ、しかも変化の絶えない市場で存在感を保っていくというプレッシャーは、各ブランドともこれまで以上に強まっている」と語る。
ケリング傘下のグッチとシャネルは、はるかに規模の小さいブランドから新進デザイナーを登用するという賭けに出ている。LVMH傘下のディオールも近々これに続く可能性が高い。だが新たに起用されるデザイナーを待ち受けるのは、過不足ないリニューアルを実現するという難しい任務だ。投資家たちは結果を出すまでの猶予をほとんど与えてくれない。
グッチは先週、バレンシアガのデザイナーであるデムナ・ヴァザリア氏(43)をデザインチームのトップに任命したが、これを受けてケリングの株価は10%以上下落し、同グループの株式時価総額は約30億ユーロも低下した。
コンサルタント会社DLGのジャック・ロワザン氏によれば、現代は「スーパースター級」のクリエイティブ・ディレクターの時代であり、ブランドのアイデンティティはデザイナーによって左右され、これまでの伝統にも影響を及ぼすという。
グッチはここ2年間、クラシック色の濃いデザインにより高級市場志向を強めてきたが、アナリストのあいだではもっと大胆なファッションを期待する声が高まっていた。だが投資家たちは、デムナ氏はラグジュアリーストリートと呼ばれるスタイルを武器にケリング傘下のもっと小規模なブランドを盛り上げてきた人物で、グッチにはふさわしくないのではないかと懸念している。
ロワザン氏は、クリエイティブ・ディレクターが変われば、「デザインの方向性だけでなく、ブランドの位置付けや顧客層まで」再定義することになる、と語る。
中国経済の低迷が続く中で、高級ブランドが今年期待をかけているのは米国市場だ。ただしここでも経済の先行きが不透明になる兆しが見られる。
非公開企業であるシャネルは、ケリング傘下のボッテガ・ヴェネタで成功を収めたマチュー・ブラジー氏(40)を起用した。何十年もカール・ラガーフェルド氏の指揮下にあり、2019年の同氏の死後は長年の盟友であるヴィルジニー・ヴィアール氏が引き継いだ同ブランドに新たなデザイン手法を持ち込むのは、容易ではない大仕事だ。
GAMで高級ブランド投資戦略マネジャーを務めるフラビオ・セレダ氏は、クリエイティブ・ディレクターの重要性はブランドによって異なる場合がある、と語る。
ヴィアール氏が昨年突然離脱した後、シャネルはブランドの象徴を強調してきた。ショーの会場にはラガーフェルド氏がお気に入りだったパリのグラン・パレを使い、ランウェイはCを組み合わせたシャネルのロゴをかたどり、そこを歩くモデルは黒いボウをあしらった服を身にまとっていた。
<業界全体にわたる変化>
LVMHでは、1月にメンズ担当デザイナーのキム・ジョーンズ氏がディオールを離脱した後、新たなクリエイティブ・ディレクターを公式発表していないが、まもなく新たなデザイナーと契約する可能性が高く、ジョナサン・アンダーソン氏が有力視されている。アンダーソン氏のロエベ離脱は17日に発表されたが、LVMHは同氏の今後の役割についてはコメントを控えている。
LVMH傘下のセリーヌやジバンシーなど規模の小さなブランドの多くでも、新たな顔触れが登場している。またヴェルサーチを30年近く率いたドナテラ・ヴェルサーチ氏は、ミュウミュウのダリオ・ヴィターレ氏に道を譲った。
「これだけ激しい椅子取りゲームが起きてしまえば、クライアントはどのショップに行けばいいのか途方に暮れる」と語るのは、最高級ファッションブランドのいくつかが本店を構えるパリのモンテーニュ通りで主要欧州ブランドの販売アシスタントを務めるヤニス・ウゼーヌ氏。
ファッション産業、高級品産業に特化したアドバイザーを務めるアチム・バーグ氏も、「高級ブランド業界で、トップデザイナーがこれだけ激しく動いた例は記憶にない」と言う。
デザインスタジオやマーチャンダイジングチーム、マーケティング部門やデザインチームにも変化は広がっていくだろうが、時間はかかるだろうし、目に見える影響が出てくるのは来年になるだろう、とバーグ氏は続ける。
コンサルタント会社ベインのシニアパートナーであるフェデリカ・レバト氏は、「ブランドのデザイン手法をあまりにも急激な変化させることで」ファンを困惑させないように配慮する必要がある、と指摘する。
ロワザン氏は、中国の購入客にとっては、ブランドの「今ここ」のデザインが、その歴史的な文脈よりも重要だが、西側の購入は「ブランドのアイデンティティの継続性に大きな価値」を見出していると言う。
デザイナーの名前で購入を決めるわけではない、という人もいる。
パリを訪れた米国人観光客ステファニー・ゴールドさんは、「デザイナーが誰かなど気にしない」と言う。先日、人目を惹くディオールの眼鏡を購入した。「誰もが持っているようなものは買いたくない」
高級品セクター全体では、2019年から2023年にかけて年平均10%の成長を示したが、UBSでは、2025年の成長率は4%前後になると予想している。グローバル成長の3分の1以上は米国向け販売によるもので、中国市場での売上高が1%減となるのに対して、米国市場は7%増と見られる。
アリックス・パートナーズでコンサルタントを務めるオリビエ・アブタン氏は、各ブランドは、再編にあまり時間をかけすぎないよう注意しなければならない、と指摘する。
市場ではグループ主力であるルイ・ヴィトンよりも後になったディオールのデザイナー変更は遅きに失したのではないかという声もある。
アブタン氏は、「ブランドが成長鈍化を察知したら、すぐさま」改革に踏み切る必要があると言う。
(翻訳:エァクレーレン)