アングル:日銀、国債減額ペースで慎重意見 金利上昇リスクを警戒

3月19日、6月の国債買い入れ計画の中間評価を前に、長期金利の上昇加速への懸念や流動性確保の観点から買い入れ額の減額ペースをいずれかの時点で緩めるべきだとの声が日銀で出ている。日銀本店前で1月撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)
Takahiko Wada Takaya Yamaguchi
[東京 19日 ロイター] - 6月の国債買い入れ計画の中間評価を前に、長期金利の上昇加速への懸念や流動性確保の観点から買い入れ額の減額ペースをいずれかの時点で緩めるべきだとの声が日銀で出ている。すでに国債買い入れは金融政策の手段ではなくなっているとの認識だが、国債買い入れのさらなる減額がはらむ金利上昇リスクへの警戒感が一部に出てきている。
<長期金利の上昇けん制せず>
長期金利は2月以降上昇傾向をたどったが、植田和男総裁は国会で、長期金利が急激に上昇するという「例外的な状況」になれば、機動的に国債買い入れ増額などを実施すると、昨年7月の国債買い入れ減額計画策定時の対応方針を繰り返し、市場の動きをけん制しなかった。
総裁は、長期金利は「市場で自由に形成されることが基本」としたうえで、市場の見方と日銀の見方に大きな齟齬はないと発言している。背景には、昨年3月にイールドカーブ・コントロール(YCC)を終了し、国債買い入れが金融政策の手段ではなくなった以上、債券市場に影響を及ぼすような「口先介入」は控えるべきとの考えがある。
19日の会見でも総裁は現在の市場は例外的な状況にはないとの認識を示し、イールドカーブ全体としては経済活動をサポートする水準にあると語った。
<中間評価を見据え>
ただ、この間、日銀は海外を含めて市場を注視し、市場参加者の動向を分析していた。金利上昇ピッチは超長期債が最も早く、40年物国債利回りは17日に一時3%と過去最高の水準まで上昇した。
長期金利の上昇を眺め、日銀内では今年6月に予定されている国債買い入れ計画の中間評価を意識した意見も聞かれるようになった。中間評価では、これまでの買い入れ減額を振り返り、2026年3月までとしている現行計画の見直しの要否と26年4月以降の計画を議論する。
金利の上昇が強まる中で、日銀の一部からは、国債買い入れのさらなる減額がはらむ金利上昇リスクへの警戒感が出てきている。日銀の月間買い入れ額は26年1―3月に月3兆円程度となるが、3兆円を下回る買い入れ額になった際に、金利上昇を加速する要因になるのではないか、との懸念がある。
米国では、23年10月にかけての米長期金利の急騰を受け、米連邦準備理事会(FRB)が利上げをいったん見送った過去もある。金利上昇の度合いによっては、中立金利までの利上げをめざす日銀の戦略にも影響が出かねず、どこかの時点で減額ペースを鈍化させるべきとの声がある。
金融システム安定の観点から、日銀のバランスシートは規模が大きくても問題はないとの考えも聞かれる。
<検討はこれから、市場機能度など見極め>
もっとも、減額ペースを鈍化させるべきだ、との意見が現時点で日銀内で多くなっているわけではない。足元の金利上昇だけで議論するのは時期尚早で、市場動向をもう少し見極めるべきだといった声や、26年4月以降の買い入れ計画は市場参加者の意向を踏まえて検討していくべきだとの声がある。
もともと3月は国債の主要投資家が購入を手控えやすい。新年度入り後の4月以降は需給が引き締まり、市況が好転することも予想され、金利動向を巡っては「累次の(0.5%までの)利上げを踏まえて策定された投資資金がどれだけ沁み出してくるかの見極めが必要」(銀行幹部)との声もある。
発行当局も静観の構えを崩していない。加藤勝信財務相は18日の閣議後会見で「市場の動向についてその背景がどうなのか、要因がどうなのかは従来からもコメントを控えている」と述べた。
植田総裁は19日の会見で、中間評価に向けて「今後、検討を本格化する」と述べた。市場動向や市場の機能度を改めて点検して計画修正の要否を判断し、26年度以降の計画も示していくと話している。