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5月3日に総選挙を控えるオーストラリアで、パレスチナ自治区ガザの紛争が選挙戦の争点に浮上している。写真は 3月、労働党のトニー・バーク氏と無所属のジアド・バスユーニー氏のポスターが貼られた豪レイクンバで撮影(2025年 ロイター/Hollie Adams)
Christine Chen Byron Kaye
[シドニー 8日 ロイター] - 5月3日に総選挙を控えるオーストラリアで、パレスチナ自治区ガザの紛争が選挙戦の争点に浮上している。アルバニージー首相が率いる与党・労働党政権はガザ問題でパレスチナ人とイスラエル双方の主張に配慮する立場を採ってきた。しかし選挙戦ではイスラム系住民とイスラエル系住民の両方から取り組みが不十分と不満をぶつけられており、政権維持に必要な議席を確保できるか微妙な情勢だ。
シドニー在住の非営利団体職員で人権活動家のアズ・ファフミさんは、以前は労働党を支持する熱心なボランティアで、地元選出のトニー・バーク雇用・職場関係相を再選させようとパンフレットを配っていた。しかし2023年にガザ紛争が勃発するとガザのパレスチナ人への支持を訴えるイスラム系住民の声を聞かない労働党に失望。今ではバーク氏を落選させようと活動している。シリア系イラク人のルーツを持ち、イスラム系を自認するファフミ氏は「あの人たちは選挙の時にしか私たちの声を聞こうとしない」と憤る。
一方、ブリスベンではユダヤ系の専業主婦ハヴァ・メンデルさんが「反ユダヤ的な攻撃を阻止すべく十分な対応をしていない弱腰の労働党政権を打倒する」ために、数百人のボランティアを率いて活動している。前回の総選挙では、気候変動対策を評価して労働党を支持していた。
ファフミさんやメンデルさんのような有権者の不満の高まりは、ガザ紛争によって労働党の支持基盤に生じている分断がいかに大きいかを浮き彫りにしている。労働党が政権維持を目指して争っている相手は、保守系の野党・保守連合(自由党と国民党)だ。
労働党政権は2023年後半以降、ガザ紛争について、パレスチナ人の置かれた状況への懸念を表明しつつ繰り返し停戦を求め、同時に同盟国イスラエルの自衛権も支持するという微妙な舵取りを続けてきた。
しかしこうした姿勢は親パレスチナ派と親イスラエル派両方の有権者から怒りを買い、労働党は過半数を維持する上で鍵となる下院の9議席で守勢に立たされていると専門家は指摘している。オーストラリアは下院(定数150)で過半数を獲得した政党が政権を担う。
ファフミ氏の選挙区はシドニー西部にある多文化・労働者階級が主流の3選挙区の1つで、イスラム系住民が有権者の約3分の1を占める。イスラム系住民がオーストラリア全体に占める割合はわずか3.2%。同様にユダヤ系オーストラリア人は全人口の0.5%に過ぎないが、シドニーとメルボルンの都市部の裕福な選挙区では有権者の最大6分の1を占める。こうした人口構成が現職議員の得票を大きく動かしかねないと専門家は見ている。
独立系選挙アナリストのウィリアム・ボウ氏によると、労働党はシドニー西部で最大20%の票を失う可能性がある。これは昨年英労働党がガザ問題を巡るイスラム系有権者の反発で敗北した状況と重なる。
<ガザが身近な問題に>
シンクタンク「センター・フォー・ウェスタン・シドニー」のアンディ・マークス事務局長は、イスラム系有権者は「一枚岩ではない」と指摘する。通常は医療や住宅といった地域の課題が世界の反対側で起きている出来事よりも優先されてきた。
しかし今回の選挙では、中東に家族を持つ人々が多く、ガザ紛争が多くの有権者にとって身近な問題になっている。「シドニー西部では全ての政治は地元密着というのが鉄則」だとマークス氏は指摘し、「イスラム系住民はSNSや家族とのつながりを通じて、中東の出来事を地元のことのように感じている」という。
無所属で出馬してバーク氏と選挙戦を争っているイスラム系の医師ジアド・バスユーニー氏は20年もの間、労働党が議席を握っている選挙区に暮らし、自分の主張が取り上げられないと感じていたが「ガザの問題が大きな転換点になった」と振り返った。
オーストラリアの投票制度は複雑だ。全ての候補者に優先順位を付けて投票し、1回目の集計で過半数を取得する候補者がいない場合は最下位の候補者の票を他の候補に再配分し、過半に達した候補が当選する。つまり1回目の集計で49%の票を得ても、票の再配分によって最終形に落選することがあり得る。
バスユーニー氏のような無所属候補は1回目の集計で得票が少なくても、他の候補者と「相互に優先票を回す」協定を結ぶことで当選の可能性を高めたり、共通の対立候補の当選を阻止したりする戦略を採用することができる。
<保守派はユダヤ系有権者狙い>
地元メディアによると、野党・保守連合はパレスチナ人支持派との連携を拒否し、ユダヤ系住民への支持を強調。アルバニージー首相を「反ユダヤ主義への対応が甘い」と批判。2022年に環境政策を掲げる無所属候補に奪われた議席を奪還すべく、シドニーの裕福な東部郊外やメルボルン中心部などユダヤ系住民が多く住む地域で親イスラエル派候補者を擁立している。
オーストラリア・ユダヤ人評議会の共同最高責任者、アレックス・リフチン氏は「われわれのコミュニティ-史上初めて、投票でイスラエルや反ユダヤ主義といった問題が重視されるだろう」と手応えを口にした。